71.なんとなく方言を使う

電子書籍を書いています、楠田文人です。
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私はコピーライターが中心ですが、ビデオ台本、e-ラーニング台本もかなり書いています。企業の紹介ビデオ、研修用説明ビデオ、製品紹介ビデオ、製品マニュアルの台本もたくさん書いたので、どこかで知らないうちにご覧になっているかも知れません。
IT ソリューションの説明やシステムの説明は、まだ台本も書き易いけれど、セキュリティ対策の説明、コーポレートガバナンスの説明、企業憲章の説明などは難しく、場合によってはキャラクタなどを立てて狂言廻しにした方が説明し易いこともあります。こうやっちゃいけないよ、って例を役者さんに演じて貰うパターンですね。e-ラーニングだとアニメのキャラクタを使います。
昔、学校に収めるソーラーシステムの紹介を、ハードディスク容量が空いてるからムービー形式のアニメーションにして入れることになりまして、その台本を書きました。電池を宇宙からやって来た宇宙電池人として擬人化して、地上で出会う女子生徒とのやり取りで話を進めて行くパターンに決まりました。宇宙電池人がエネルギーがなくなってへばってて、それを女子生徒が助けたところから話が始まるのですが、ソーラーシステムの紹介なので、ソーラーシステムで作った電気はクリーンなのでおいしいけれど、火力発電などから作った他の電気はクリーンじゃないと言う設定。宇宙電池人は頭からケーブルを出して部屋のコンセントに繋ぐ。宇宙電池人は電気の味が気になる。
書いていてどうも盛り上がりに欠ける。そこで思い付いた! 宇宙電池人を関西弁にしよう。

「僕は宇宙電池者なんだよ。お腹が空いちゃって…。電気をちょっとだけ貰えないかなぁ?」

「わては、宇宙電池もんなんや。腹が減ってしもうて…。電気、ちょっとだけ貰われへんかいな?」

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クライアントの会社からNGが出まして(関西の会社だったのですが)、標準語で喋る宇宙電池人になりました。
お話でも方言を使うことで、全く雰囲気の変わったのは「いかりのにわとり」です。
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「いかりのにわとり」に登場する吉田さんは普通に喋っていたのですが、どうも味が足りない気がした。そこで何弁か判らない方言で喋る人にしたら、がらっと雰囲気が変わりました。私はずっと東京なので方言は判りません。だからお話に登場するナントカ弁が正しくないのは仕方ないので、それならと何弁だか判らない方言にしました。この方言はちょっと変だ、とか突っ込まないようにしてくださいまし。

70.三年寝太郎の目覚め

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いくら起こしても起きない寝太郎が三年振りに起きた。
「ふぁあ~っ!」
と大きく伸びをして欠伸をすると辺りを見回した。

寝太郎は、ほんの少し寝たつもりだったが、周りは勝手に三年が経っていた。おふくろは三年分歳を取って皺が増えた。歳の離れた妹はきれいな少女になっている。
寝ていた三年間を返して欲しいと思うより、進んだ三年に早く追い付かないと行けないと焦った。
三年間は中途半端な時間だ。十年寝ていたらしっかり時代に取り残されて、追い付くのに苦労するだろう。桃栗三年柿八年。石の上にも三年。微妙な間隔の感覚だ。
とは言え、三年は一年の三倍だ。新橋の飲み屋のボトルは切れちゃっただろうなぁ。駅前商店街の居酒屋で入れた焼酎のボトルはどうだろう。そもそも残ってたっけ?
駅前スーパーのスタンプは溜まるところだった。

「寝太郎さんが起きたって?」
「そうなんです。三年振りに目を覚ましたんですよ!」
「寝太郎さん起きたんだって?」
町では噂が広がった。
寝太郎が天井を眺めているとおふくろが来た。
「高田くんよ」
「高田か。行くよ」
寝太郎は起き上がってガウンを着て居間に行くと高田がいる。
「やっと目が覚めたか? 長かったな、三年だよな?」
「ああ、そうらしい。ついさっき寝たばかりの感じだけど」
「何で三年も寝てたんだろうね?」
「医者でも判らないらしい。単に寝てるだけで他に悪いところはないってさ」
都市伝説は多い。
三年振りに会った高田は少し老けた感じはするものの、寝る前に飲んだ時とほとんど変わらない。様子がちょっと違って見えるだけで、それ以外は前と同じだ。
「高田は少し痩せたのか?」
「五キロくらい痩せた」
こう言うところに三年経ったことが現れる。
「寝太郎が寝たきりになる前に飲んだじゃん。その時のこと覚えてる?」
「覚えてる。駅前の焼き鳥屋」
「あん時、駅前で待ち合わせてる時に、一緒に宝くじ買ったじゃん。俺は全く覚えてなかったんだけど」
「うん」
「百円のくじを、連番とバラを千円ずつ出して二十枚買って、十枚ずつ分けた」
なんとなく思い出した。
「忘れてて、昨日当選番号を確認したら、俺の分の連番の一つ前のが当たってたんだ。あん時の宝くじどうした?」
高田の持ち分の一つ前と言うと、連番の一桁が五のくじか。
「どこに入れたかな? 着てたスーツのポケットか、バッグか。当たってた?」
「一千万円」

がちゃん!

茶碗を落とす音がした。慌てたおふくろが部屋の障子を開けた。
「一千万! あんたどこに仕舞ったの?」
お茶を持って来たところ廊下で聞いたらしい。
「早く探しなさいよ」
おふくろの方が慌ててる。
「判った」
寝太郎は思い腰を上げて部屋に戻った。

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「知らなかった。宝くじの当選金引き換えは一年以内なんだってさ」
「俺も買ったことをすっかり忘れててさ、それに、お前が寝た切りで起きないって状態になっただろ。すっかり頭から抜けてた」
高田も忘れてたらしい。目覚めて余裕の出てきた寝太郎は言った。
「一千万分の夢を三年間見てたことになるかな」
「そんないい夢を見たのか?」
「それは言えない。ふわぁあ~」
寝太郎はにやっと笑った。

69.アーティチョークを探した

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高校の時、友人が伊丹十三に ハマってまして、追っかけじゃなくて「女たちよ」と言うエッセイのファンで、「おもしろいから読んでみな」と貸されました。確かにおもしろい。○○の話とか、△△の話とか、□□の話とか(※ネタバレになるので書けません)、今読むと高校生向きの本ではなかったと思う。
 伊丹十三の「女たちよ」はこちら >>
エッセイで色々な話が登場します。食べる話に登場する「アーティチョーク」がおいしそうで食べてみたかった。
当時、レストランで初めてカニクリームコロッケ」「ライスグラタン」とかを食べた時は、その味に驚いた記憶があります。ハンバーガー、フライドポテト、フライドチキンも次第に日常的な食べ物になりましたけど、初めて食べるとそれまでの食生活では出会わない味なので結構びっくりする。

アーティチョーク」は大きな松ぼっくりみたいな形をしていて、隙間に入ってる実だか種だかを食べるらしい(今となっては記憶が定かではない)。どう考えても八百屋で売ってる気がしない。友人は近所の八百屋に行ったけど見付からなかったようです。

「済みません」
「あいよ! 何を差し上げましょう」
アーティチョーク、ってありますか?」
「あーてぃ!? 何だいそりゃ?」
アーティチョークって言うらしいんだけど」
「チョークって、白墨を食べるのかい?」
※ 黒板に板書するチョークは白墨とも言いましたよね

アーティチョーク」は「西洋アザミ」と言うそうな。これまた植物の知識がないので見当も付きませんが見付からないので諦めて以来、未だに食べていない。
伊丹十三は、ブラザース・フォアのベストアルバムの中に収められていた「北京の 55 日」と言う曲のライナー・ノーツで知っていました。同じ題名の映画の主題歌で、映画に伊丹十三が出演していたらしい。見てないけど。
 「北京の 55 日」はこちら >>
昔の洋食で思い出すのは、スパゲティはナポリタンが普通で、って言うかそれしかない時に初めて食べたミートソースです。今は無き渋谷駅玉電ホームにあったコーヒースタンドのミートソースはソーセージが入ってた。こちらも驚きの味でした。
それから、田園調布と自由が丘の中間あたり、環八から少し入ったところにあったドライブイン「ヴァンファン」のドライカレーは、カレーピラフではなくてご飯の上にキーマカレーを乗せて、その上にポーチドエッグを乗せたものでした。懐かしい。

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「ただいま」
「お帰り」
「おう、花子」
「何だい、父ちゃん?」
「今日、学生さんが白墨買いに来たけどよ」
「白墨!?」
「そうだよ」
「八百屋で売ってる訳ないじゃん!」
「俺もそう言ったんだけどよ」
「売り始めたのかなぁ」
花子の言葉に『白墨、売り切れました』の札を下げることにした。話は後で考えりゃいい。
翌日のことだ。
「いらっしゃい!」
作業着を着た老人が札を見詰めている。主人は老人に声を掛けた。
「白墨ですか?」
「ええ。売り切れって、いつ入って来るんですか?」
注文だ!
「お取り寄せになります」
「それじゃ、白を 1 カン頼む」
そう言うと老人は行ってしまった。翌日から主人は白墨問屋探しが始まったのである。