88.寒のサンタクロース

電子書籍を書いています。楠田文人です。
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サンタクロースのソリを引くトナカイ8頭の名前は、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ビクセン、コメット、キューピッド、ドナー、プリッツェンで、よく知られているのが追加された真っ赤なお鼻で知られるルドルフです。

 真っ赤なお鼻の トナカイさんは
 いっつもみんなの 笑い者

真っ赤なお鼻がぴかぴか光って道標になるから、ソリの先頭を曳いてくれだって。見た目は歩く救急車だな。真っ赤なお鼻のトナカイはアルコール依存症に違いない。雪が多くて寒い地方だし、冬はウォッカ漬けなんだろうなぁ。
鼻が辺りを照らしくれて、プレゼントを届ける時に判りやすいって、それなら昼間配ればいいんではないだろうか。昼間は忙しいのかな? あ、昼は飲んだくれてるのか。
そういえば、外国で鼻が赤い人、と言うのは時々見掛けますけど、日本には少ない。呑む量が違うことや、アルコール分解酵素の問題でしょうかね。話が反れた。
「あいつが新入りのルドルフって奴か?」
「そうらしいですね」
「確かに鼻が真っ赤だ」
「夜には光るって本当かな?」
「見たことないけど、そうらしい」
「出火するほどの熱を持つらしいな」
「蚊や蠅は寄ってこないだろうな」
「それは本当か!?」
「蚊や蠅は、焚き火に近寄らないぞ」
「するってーと、あのルドルフの鼻は焚き火と同じ熱を持っているのか!?」
トナカイ達はしばらく先を歩くルドルフを見た。
「一種の凶器だな」
「クリスマス・プレゼントが盗難に遭うのを防げる」
「あの鼻で?」
「盗難を目論む奴が知らずに近付いて来て、サンタクロースの袋に手を掛けた瞬間、ルドルフの鼻先に触れて大火傷をおう」
トナカイ達は言葉をなくした。

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ある晩、いつものようにルドルフを先頭にしてサンタクロースのソリは闇夜を進んでいた。しかし、ルドルフは辺りの空気がいつもと違うと感じていた。
「何だろう?」
この時期、季節が秋の終わりから冬に変わろうとする時は、一足早い寒さが、時に空気中の蒸気を凍らすことがある。しかしその日はより皮膚を刺すような刺激で、空気が凍ったせいではない。
ブアン! 忽然とサンタクロースのソリの前に現われたのは、インカ金星人の宇宙船であった。インカ金星人は宇宙銃を構えていた。
「ご苦労だな、サンタクロース。ソリに乗せたプレゼントは置いて行け!」
「な、何だとぉ!」
サンタクロースとソリを引くトナカイ達は大騒ぎになった。
「サンタさん、どうしやす?」
「インカ金星人には敵わない」
「くそっ!」
「サンタさん。僕に任せてくれ」
ルドルフは一歩進み出る。
「何だお前は! トナカイが何の用だ?」
ルドルフは返事もせずに、高熱で真っ赤になった鼻先をインカ金星人の宇宙船に近づけた。するとどうだろう! 鼻先が近づけられた宇宙船の外壁が溶けていくではないか!
「わわっ! 何だこりゃ!」
「首領! こいつの鼻は高熱を持っています」
「これ以上、宇宙船が溶けたら危険です!」
「仕方ない。ここは一旦、引き下がれ」
インカ金星人は溶けかかった宇宙船の乗って逃げて行った。
「助かった、ルドルフ。ありがとう」
ルドルフの鼻先の気温が下がるのを待って、サンタクロース達は仕事を続けたのであった。