67.短編集を考える

電子書籍を書いています、楠田文人です。
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いくつか短編集を書きました。
「七道奇談」 >> こちら
「戯神」 >> こちら
「胡乱五話」 >> こちら
「七彩抄」 >> こちら
「長靴を嗅いだ猫」 >> こちら
「電柱人」 >> こちら
短編ひとつ書くのと、短編集として考えるのとでは、構成の仕方が違います。
短編なら、イントロの面白さで惹き付け、起承転結を考えて、ひとつかふたつ捻って予想外の結末で終わる。ものによって変わりますが、大体こんな感じで進めるようにします。
短編ひとつなら上記の方法で楽しく書けるのですが、短編集の場合は最低でも全五編とか七編とかなくちゃだめなので、セットで考える必要が出て来ます。関係なく溜まったら短編集として出す、って手もありますけど、それじゃ寄せ集めになっちゃう。
例えば「七彩抄」の場合は、色や光を感じられるお話にしようと思いました。「七道奇談」の「衣魚」で、イントロの風景や虎の現れるシーンが映像的に感じられるよう留意したので、その雰囲気を全編に持たせたいと思いました。
「蒼池」の雪山のシーンがそうです。「哀妹」で音が固まって粉になって、きらきら落ちるところもそうです。ただ、余りやり過ぎると「最初から映像作品にすればいいじゃん」ってことになるので、文章だからこその映像が望ましい。
お話なので、読みながらあれこれ想像する、もしくは想像してもらうことを前提にしています。きっちりイメージして欲しい時は、きっちり描写し、読み飛ばして欲しい時はさらっと書きます。こんな風に。

さらり版:
「ドアが開いて、コートを着た男が入って来た。肩に付いた雪は部屋に入ると消えた」

きっちり版:
「白いペンキの剥げかかったドアが開いて、暖かそうな茶色のコートを着た男が入って来た。靴が雪を踏む音を立てた。ささくれたドアに雪が溜まって行く。肩に付いていた粉雪が、室内の暖かさに消えて仕舞った」

「長靴を嗅いだ猫」「電柱人」は、力の抜けたお話を書きたいと思って作りました。もちろん書いてるうちに違う方向に行って仕舞ったのもありますが。こちらは特に映像的に留意していません。
何故、力の抜けたお話かと言えば、「月龍」とかを書いていると頭の中が緊張してる感じで、それで力の抜けたお話を書きたいと思ったのかも。
 「月龍」はこちらへ >>
不思議なもので、2、3 話くらい書くとそのテーマの頭になって来ます。寝ても覚めても頭の中はそのテーマで一杯になってる。この状態で他のテーマを考えるのは難しい。

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「七彩抄」のように、色や光を意識したお話はまた書いてみたいと思っています。そう言えば書いてみたいお話がたくさんあるなぁ。

66.ここ掘れワンワン

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「花咲か爺さん」が拾って来た犬が、畑で「ここを掘れワンワン」と吠えるので掘ってみると、大判小判がざくざく出て来た。

「ちょっと待ったぁ」
「どうした?」
「犬が『ここを掘れ』と言う時に、『ワンワン』と吠えるだろうか?」
「?」
「この地面の一角を掘って欲しい、と飼い主にねだる場合『ワンワン』は言わないだろう? ワンワンはどちらかと言うと威嚇の意味が含まれる」
「言われりゃ、そんな気もするが」
「掘って欲しいと鳴くなら、クゥーンだろうな。『ここ掘ってよ、クゥーン』」
「童謡はどうなってたっけ?」
「『裏の畑でポチが鳴く 正直爺さん掘ったらば』鳴き方は表現していない」
「う~む、そうか」
「兎に角だ、拾って来た犬を畑に連れて行ったら、地面を見て、わんわん吠えた。爺さんは、地面の中に何か妖しい奴が潜んでいるのではないかと思うのが自然だ」
掘っていると、土中からぬわーっとタコの怪物が現れる様子を想像した。こいつは「土蛸」と言って、ドタキャンが得意だ。
「成る程。ちょっと聞いてみよう」
「誰に?」
「三月堂さんに」

三月堂さんがやって来た。

こんちは。二人して何してんの?

「三月堂さんに犬の視点から聞きたいんだけど、花咲爺さん、ってあるじゃん。あれってさ、拾って来た犬を裏の畑につれてったら、ここ掘れワンワン、って吠えたんだけど、犬としては、裏の畑につれて行かれて、土中に何かあることが判ったとして、掘って欲しくてワンワン吠えるものかね? 掘って欲しかったら、ここ掘ってよ、クゥーンって鳴くんじゃないの?」

 「鼻先案内犬シリーズ」はこちら >>

うーん、そうかもしれないけど、でも、つれて来た爺さんが気付かないで先に行っちゃってたら、戻って掘って欲しくて、ワンワン吠えると思う。

「それは考えなかった。注意を引こうとしたのか!」

鼻先を土に付けたり、前足でちょっと掘って見せて、だめだこりゃ掘れないな、掘ってみてよ! って仕草をしたんじゃないかな。

「でもさ、するってーと、この犬は何が埋まってるのか知ってたのか?」
二人は一瞬ドタキャンが潜んでいる土中を想像した。よくある断面図。

僕は鼻先案内犬だから他の犬と一緒にしないで欲しいけど、何が埋まってるくらい判るんじゃないだべか?

「何が埋まってたんだろうね?」

そだねー。あ、ごめん。行かなくちゃ。

「どうしたの?」

「鼻先案内犬シリーズ」の、次のお話が進んでるんだ。もうすぐ出番だから。じゃあね。

そう言って、来たばかりなのに三月堂さんは行ってしまった。

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お話を作る側では、何が埋まっていると面白くなるか、とか、何が出て来ると予想外の展開になるか、と言う観点で考えるでしょう。何だといいかな。

65.4001

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お話を書くのに使っている訳ではありませんが、万年筆をいくつか使っています。万年筆を使おうと思ったのは 20 年くらい前。企画書や文書をコンピュータで作るようになって、ふと文字を書いてみると字が【やたらめったら下手】になっていた。これはまずい、と思って、ちょと高い万年筆なら楽しく字が書けるだろうと文房具屋さんに行き、あれこれ試し書きをしてセーラー万年筆のプロフィット 21 を買いました。
 万年筆でお話を書く作家の話はこちら(長靴を嗅いだ猫) >>
その後、よくあるパターンで他の万年筆が欲しくなり、かと言ってコレクタではないのでパーカーのフロンティア、ペリカンペリカーノ Jr.、プラチナのプレジール、パイロットのカクノなど 安いモノを中心に買って使うようになりました。字は【やたらめったら下手】と思った時よりは上手になった気がする。
買った時に付いて来るインクはブラック。そのうちブルーブラックを使うようになりました。ブルーブラックは「ブルー」の印象が強いけれどメーカーによって全く色味が違う。
ペリカンのブルーブラックはグレーに近くて、初めはどうしたんだろうと思ったりしましたけど、慣れて来ると結構気持ちいい。逆にプラチナはブルーに近い。
ペリカンのインクには「4001」って名前がついてます。何で「4001」なんだろう。4000 の次だから 4001 になるのだろうか。でも、4000 種類も売ってる訳がないだろうし。型番が 100 に始って次は 200、 300 となってるなら 40 種にだけど、それだと急に「1」ってのが変だ。わざとらしい。
そう言えばリッケンバッカーのベースも「4001」って言うんですよね。
ビートルズポール・マッカートニー、YES のクリス・スクワイヤが使っててよく知られている、独特のガギンゴギンの固い音がする有名なベース。

番号で思い出したのが、プログラム言語の BASIC のプログラムには行番号がありました。

  10 A=10
  20 B=30
  30 C=A+B
  50 PRINT C
  60 END

これは

  1 A=10
  2 B=30
  3 C=A+B
  4 PRINT C
  5 END

でもいいんだけど、修正する場合、間に

  31 PRINT "VARIABLE A : " ;A
  32 PRINT "VARIABLE B : " ;B

などと入れられるように、最初は 10 刻みで書きました。そうじゃないと修正する部分が入らなくて行番号を振り直さないといけなくなります。なので、

  1000 INPUT A
  2000 FOR B=1 TO A
  3000   C=C+B
  4000 NEXT B
  4001 PRINT C
  5000 END

ってのもありなんだけど、関係ないだろうな。話が反れた。

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ジャズ譜面集に「1001」と言うのがあります。戦後アメリカ軍が進駐して、ジャズなども持ち込んで来て、日本人のプレーヤが演奏するようになって、曲を聞き取って譜面にしたり、どこかで印刷されたものを追加したりして出来た譜面集と聞いています。昔はこれしかなかったので重宝しました。時々怪しげなコード進行があったりして。
「101 匹わんちゃん大行進」と言うディズニーのアニメーションもありました。

101、1001、4001 などの数値に拘るのは、ヨーロッパ的感覚なのでしょうか。日本的ではない感じがします。ポール・マッカートニーのバイオリン・ベースは、ヘフナーの 500/1 ですね。これもかな。