66.ここ掘れワンワン

電子書籍を書いています、楠田文人です。
 電子書籍はこちら >>
「花咲か爺さん」が拾って来た犬が、畑で「ここを掘れワンワン」と吠えるので掘ってみると、大判小判がざくざく出て来た。

「ちょっと待ったぁ」
「どうした?」
「犬が『ここを掘れ』と言う時に、『ワンワン』と吠えるだろうか?」
「?」
「この地面の一角を掘って欲しい、と飼い主にねだる場合『ワンワン』は言わないだろう? ワンワンはどちらかと言うと威嚇の意味が含まれる」
「言われりゃ、そんな気もするが」
「掘って欲しいと鳴くなら、クゥーンだろうな。『ここ掘ってよ、クゥーン』」
「童謡はどうなってたっけ?」
「『裏の畑でポチが鳴く 正直爺さん掘ったらば』鳴き方は表現していない」
「う~む、そうか」
「兎に角だ、拾って来た犬を畑に連れて行ったら、地面を見て、わんわん吠えた。爺さんは、地面の中に何か妖しい奴が潜んでいるのではないかと思うのが自然だ」
掘っていると、土中からぬわーっとタコの怪物が現れる様子を想像した。こいつは「土蛸」と言って、ドタキャンが得意だ。
「成る程。ちょっと聞いてみよう」
「誰に?」
「三月堂さんに」

三月堂さんがやって来た。

こんちは。二人して何してんの?

「三月堂さんに犬の視点から聞きたいんだけど、花咲爺さん、ってあるじゃん。あれってさ、拾って来た犬を裏の畑につれてったら、ここ掘れワンワン、って吠えたんだけど、犬としては、裏の畑につれて行かれて、土中に何かあることが判ったとして、掘って欲しくてワンワン吠えるものかね? 掘って欲しかったら、ここ掘ってよ、クゥーンって鳴くんじゃないの?」

 「鼻先案内犬シリーズ」はこちら >>

うーん、そうかもしれないけど、でも、つれて来た爺さんが気付かないで先に行っちゃってたら、戻って掘って欲しくて、ワンワン吠えると思う。

「それは考えなかった。注意を引こうとしたのか!」

鼻先を土に付けたり、前足でちょっと掘って見せて、だめだこりゃ掘れないな、掘ってみてよ! って仕草をしたんじゃないかな。

「でもさ、するってーと、この犬は何が埋まってるのか知ってたのか?」
二人は一瞬ドタキャンが潜んでいる土中を想像した。よくある断面図。

僕は鼻先案内犬だから他の犬と一緒にしないで欲しいけど、何が埋まってるくらい判るんじゃないだべか?

「何が埋まってたんだろうね?」

そだねー。あ、ごめん。行かなくちゃ。

「どうしたの?」

「鼻先案内犬シリーズ」の、次のお話が進んでるんだ。もうすぐ出番だから。じゃあね。

そう言って、来たばかりなのに三月堂さんは行ってしまった。

f:id:kusuda_fumihito:20191102072251j:plain

お話を作る側では、何が埋まっていると面白くなるか、とか、何が出て来ると予想外の展開になるか、と言う観点で考えるでしょう。何だといいかな。