36.役目を終えた言葉

電子書籍を書いています。楠田文人です。
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「背広」が死語になりつつあるそうです。言葉は時代に合わせて変わって行くので「スーツ」に取って代わられたのでしょう。女性の社会進出が普通になったことが理由の気がします。男性の「背広」「スーツ」と女性の「背広」「スーツ」。女性の場合は「背広」って言わないですよね。男女両方に通じるスーツが主流になるのは当たり前の気がします。同じ様な言葉に「レギンス」があります。以前「スパッツ」と言ってた。
調べてみました。「死語」は使われなくなった流行語などを差し、現代で使われなくなった江戸時代までの言葉は「古語」と言う分類らしい。死語を探すと探すと既に「アッシーくん」「着メロ」「ロハ」「オカチメンコ」などたくさんあります。
※ 「ロハ」とは、食事をして割り勘と思ったら上司が払ってくれて、「ロハでいいよ」って言った。「只」を分解して「ロハ」と言う。その物の名称でなく別の言葉で言い換えるってのは、日本では古くからある方法です。元々、名前を人前で口にしない慣わしがあり、住んでいる家の特徴で呼ぶ「嶋の大臣(蘇我馬子のこと)」とか、地名で呼ぶ「茅ヶ崎のおばさん」とか「前橋の」とか言います。

いくつか時代劇っぽいお話を書いていますが、登場する物やセリフは調べながらでなければなりません。それより、頭を時代劇モードにしておかないといけない。そっちの方が大変だったりします。
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 「猫と武蔵と小次郎と」はこちら >> 
その物が使われなくなったために役目を終えた言葉があります。「ポケベル」「8 トラックテープ」「ラジカセ」「ラテカセ」なんてのがそうですね。「チャンネルを回す」が使われなくなったのは、チャンネルをリモコンのボタンで選択するようになったからです。「チャンネルを変えて」って言うよね。ダイヤル式黒電話もそうだ。お手玉、おはじきは残ってるけど「リリアン」なんてのは死語です。ご存じですか?

「やっと着きました。ここです」
 丘の上から見渡す限りの草原に墓標が建てられている。ここは「死語の地」、使われなくなった言葉達が葬られた土地だ。
「随分とあるねぇ」
「一番古い墓碑は奈良時代の物だそうですが、葬られた言葉自体、既に意味が判らなくなっています」
「そうだろうね」
徒然草では既に意味が判らなくなっていた『むまのきつりょう きつにのおか なかくぼれいり くれんどう』の墓標もあります」
 「いかりのにわとり くれんどうの鍵」はこちら >>
「ふうん。逆に新しいのは?」
「あの辺りにありますけど、『写メ』とか『イタメシ』とかですね」
「もう死語になってるのか!?」
「使いますか?」
「いいや、使わなくなったなぁ」
「その墓碑の前で葬られた死語を使うと、彼らが目を覚ましてしまいます。お気を付けください」
「死語の覚醒か?」
「そうです。それで一度、大変なことになりました」
「どうなったの?」
「恐くて言えません」
 墓守は後ずさりして頭を振った。サーッと一筋の風が吹き、草がなびいた。死語の世界。ここは早々離れることにしよう。

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「東多魔川鉄道物語」に登場する女性、秋素戸ぜね子は、死語となった「アキストゼネコ」から来ています。女子小学生の恋占い、ご存じですか?
 =愛してる
 =嫌い
 =好き
 =友達
 =絶好
 =熱烈
 =恋人
を相手の男の子の名前を指折って数えて、対応する言葉を当てはめる。こう言うのって、何となく覚えてるんだよなぁ。