18.付かぬことを聞きますが

電子書籍を書いています。楠田文人です。

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「12 月の最初の週の土日、何してました?」
「最初の週ですか」
「ええ、2 日、3 日です」
 どきっ。
「えーっと、ああそうだ。土曜日に久しぶりに会った友達と新橋で呑んで、呑み過ぎて日曜日は二日酔いで寝てました」
「新橋ですか・・・。奥湯河原であなたを見たって人がいるんですけどね?」
 どきっ。
「人違いでじゃないですか?」
「余りにも偶然でね、私も人違いじゃないかと思ったんですよ。でもね、地図を見たら現場のすぐ近くなんですね」
「奥湯河原ってバスの終点が温泉で、交通の便が悪いところですよね? 行ったことないけど」
「大きな地図には載ってませんけどね、地元の人しか知らない舗装されてない山道がありましてね、それを使うと現場まで車で二十分くらいで行けるんですよ」
 ぎくっ!
「どうしました?」
「い、いえ何でも」

「付かぬ」ことはそれまでの文脈とは関係ないことで、関係する場合は「付いて」になります。それまでの話に「付かない」ことを聞く訳で、現代の言い方で言えば「それとは関係ないんですが」とか、「ちょっと別の話になりますが」とか、「話変わるけどさぁ」みたいな感じでしょうか。考えようによっては非常に便利な言葉で、刑事が容疑者の意表を付いて反応を見たり、会話が詰まった時や話を変えたい時などに有効活用が望めます。
但し
・付かぬことを伺いますが
・付かぬことを聞きますが
とか、必ず質問が引っ付いて来て、
・付かぬことが落ちてました
・付かぬことが溝にはまって結構困りました
など、他のパターンでは使われないようです。

付かぬことの逆に「ちなみに」と言う言葉があります。こちらは、それまでの文脈に関係したことを聞いたり、確認したりします。
「ちなみに新橋では、どのお店で呑まれたんですか?」
「2~3 店はしごしたんですけど、店の場所とか名前は覚えてません」
「覚えてない?」
「ええ。かなり呑んだもんで、どうやって帰ったか覚えてないんです」
「領収書とかないですか?」
「ありません。あ!」
「どうしました?」
「女の子は、チナミって言う名前でした」
「・・・」

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「刑事! やりましたね。ホシが自供を始めました」
「やりましたね!」
「付かぬことを聞きますが、刑事はどうして地図に載ってない裏道をご存じだったんですか?」
「私は奥湯河原出身なんだよ」
「えーっ! それは知らなかった」
「偶然といえホシも運が悪い」
「ちなみにあの裏道は近道なんで遅刻しないよう毎日使ってたんだ」