85.秋のトナカイ

電子書籍を書いています、楠田文人です。
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トナカイは確かこう言っていた。

「ソリを他の動物に引かせず、私達の要求を聞いてもらうためです」

サンタクロースへの要求とは何だろう。そう言えば、
「鹿とか犬とか、猫とか狸に頼むって情報もあるんですよ」
とか言っていた。ソリを象が引くとかハムスターが引く候補に上がってるようなことも言っていた。それに、引く動物を勝手に変更させないため、サンタクロースを人形サイズに縮めたと言っていた。サンタクロースが人の大きさだと邪魔されてしまうのか。謎だ。

しかし、サンタクロースのソリを引くトナカイ達の要求なぞ考えても判る訳がない。例えば、鼻先案内犬さんに聞いても、深大寺線物語の名探偵「小石先生」が聞いても判らないだろう。
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考えても判らないのでテレビを付けた。
「今朝、十時を過ぎた頃、新潟にある米軍基地の中央滑走路Aに、着陸を試みた物体があることが判りました」
遠くから撮影したぼやけた物体が滑走路にタッチ・アンド・ゴーをする映像が写った。同じ映像が何度も繰り返し写る。
「F30戦闘機が着陸しようとすると、この物体が割り込んで着陸できずに、基地の上での旋回を余儀なくされました」
その物体は、どう見てもサンタクロースが乗っていないソリにしか見えない! 主のいないソリをトナカイが四頭で曳いている。嫌な予感がした。

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さっそくトナカイに連絡を取り、新橋の小料理屋で会った。
「何故、新潟でタッチ・アンド・ゴーを?」
トナカイはふふんと鼻を鳴らして言った。
「気付いたか。サンタ・クロースが煙突から忍び込んで、プレゼントを渡したのは昔の話だ。知られてはいないが、一度、泥棒と間違えられて事件になったことがある。それからと言うもの、サンタクロースのプレゼントはタッチ・アンド・ゴー形式で配るようになった。いちいち子供と対話しなくていいから、配るプレゼント数が増えたことにも対応できる」
サンタクロースが合法的な方法を取ったことは誉めてもよい。
「タッチ・アンド・ゴー方式なら子供部屋に入らずに済むから、同時間で倍以上のプレゼントを届けられる。それからと言うもの、サンタ・クロースは煙突から入らず、プレゼントを放り込むようになり、プレゼントは投げ込める程度の固い物になった」
「ソリを他の動物に引かせない話は落ち着いたのかい?」
トナカイはすぐに返事をしない。
「それはプレゼントの種類にも関係する。タッチ・アンド・ゴー方式で配るためには、定型内に梱包されたプレゼントでなければならない」
それは納得する。大き過ぎるプレゼントや、小さ過ぎるプレゼントだと配る手間が変だ。
「ソリは今まで通り俺達が引くが、プレゼントを配るのは猫に頼むことになった」
サンタクロースのプレゼントは猫が配っているのか!?