81.どこのおみくじ

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晦日にお参りに行くか、年が開けてからお参りに行くか迷っていたが、夜になっても然程寒くなったので出掛けることにした。ダウンを羽織って出たら暖かい。
 心頭滅却すれば火もまた涼し
逆の状況だ。言わば
 心頭滅却に拘わらず暖かし
って感じ。
スキーに行った時は夕方リフトが止まったゲレンデでも、志賀高原の一番上でも、寒さを感じなかった最強のダウンだ。どんな寒波でも勝てる安心感がある。
それだけに、今日の街中の寒さだとちょっと暖か過ぎて、熱さ対策が必要になってしまうほどだ。まあ、寒いよりはいいけど、人間は何度くらいから寒さを熱さと感じるのだろう?
ポケットに何か入ってることに気付いた。何だろう。ファスナーを開けて取り出した。
「おみくじだ」
いつのおみくじだ? 広げてみた。

 長野県木本湖怨慈社安全祈願 吉

記憶にない。漉き目? って言うのが入ってる和紙で高そうな感じ。スキーに行った時に神社に寄ったっけ。判らないけど、初詣をする時こっちの神社に返しておけばいいだろう。
全国の神社はお互い繋がっていて、長野県でおみくじを引いたから、うちの近くの神社に帰せばいいのだと勝手に決めた。郵便局やコンビニみたいに、全国展開してる気がしたのだ。
神社の参道が見えて来た。疎らに人が並んでいるけど混んでる感じではない。これならそれほど待たずにお参りできるだろう。
「寒いね!」
「帰ったら日本酒だね」
前に並んでいたカップルの声が聞こえる。私には持っていた長野のおみくじを数年振りに神社に返す、と言う大切な使命が出来た。飲むなんて、とてもとても。家を出る時は何も考えてなかったけど、おみくじを引いた時からすると数年掛かりの使命なのだ。実際にはいつ買ったおみくじなのか判らんけど。だから参道で待ってるくらいで寒いなどと言っていられないのだ。関係ないが、ランボーの映画を思い出した。
いかん! 目的が変わっている。大晦日だから初詣しようと思ったのが、ポケットのおみくじを見付けたことで、おみくじ中心になりつつある。このままだとお参りせずにおみくじだけ引いて帰りそうだ。

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しかし、だ。ポケットに入っていたおみくじは吉だったけど、比率はどのくらいなんだろう。大吉、吉、小吉、凶、大凶。宝くじと違うからどれかに偏ってても問題はない。購入した人だけ判るから、例えば凶が多くてもばれやしない。
しかし、だ。都会からの客が多そうな、それもスキー客が多い地方の神社なら、凶、とか吉くらいにして置いた方が客は安心する。大凶だと東京に帰るまで事故に遭わないか気になるし、大吉でも運を使い果たした気になってしまう。吉と凶が中心のおみくじ。
地方から来た客が多い神社のおみくじに期待される、出現パターンが少し読めて来た気がした。列が進んだ。