02.インターネットで調べ物

電子書籍を書いています、楠田文人です。あちこちの書店から発売されていますので、ぜひどうぞ。

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http プロトコルの WWW(World Wide Web)が始まったのは 1993 年。インターネット自体はそれ以前からありましたが、使える環境が UNIX 中心のネットワークだったので、アメリカ軍関係、政府関係、教育機関など限られた計算機環境での情報検索やファイルのやり取りに使われていて、
ftp(ファイル転送)
Gopher全文検索
・WAIS(データベース検索)
・Archie(アーカイブ検索)
telnet(遠隔地のサーバーなどをリモートで操作)
・finger(ユーザー情報検索・平和なインターネット時代のツールです)
などテキストで動作するものが中心でした。
その後 Web ブラウザが登場し、グラフィカルなインターフェースで文書、画像、動画、音声データが扱えるようになりました。今の時代、お話を書く上でインターネットは欠かせません。

昔から著作活動をされている作家のお宅の写真が新聞雑誌などに掲載されることがあり、壁一面に作られた本棚とそれを埋め尽くす膨大な蔵書に驚きます。読書量が多いのはさることながら、資料が多いからではないかと想像します。例えば、時代劇を書こうと思ったら、その時代の服装や習慣などを知らなければなりません。描写には資料が必要となります。

「月龍 吉祥王編 上」の一場面ですが、
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 月龍は気づかぬ振りをしてそのまま歩き、三本松の根元に腰を降ろした。
 浪人だった。草臥れた着物と破れかかった■■■を被っているが、身のこなしから只者ではないことが見て取れる。浪人は三本松まで来ると月龍と同じく日陰に腰を降ろす。
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 月龍 吉祥王編 上 >>

「■■■」の部分を書こうとして、
「侍の被る笠って、何て名前だっけ?」

調べました。
「編み笠」です。被り笠には色々あって、虚無僧が被る笠は「深編み笠」、僧侶が被る笠は「網代笠」、侍が被る笠は「編み笠」でした。写真で確認すると藁で編んだ笠。そう言えば、蓑(みの)も菰(こも)も藁、藁靴も藁、藁葺屋根も藁(茅葺き屋根ってのもありますが)。日本では藁が至る所に使われていたんですね! エスキモーはアザラシの皮、ヨーロッパは動物の皮。文化の違いがよく判ります。話が外れた。

インターネットが使えない頃は、笠の名前を調べるだけのために図書館に行って、それが載ってそうな書籍を探して調べることになります。半日仕事だな。
シリーズで時代劇を書こうと思ったら、いつでも調べられるよう本棚に「さむらひのよそほひ五十選」とか「新侍生活図鑑」とか「侍の暮らし 春夏編」とか「誰でも判る侍の服装」とか「一週間で覚える侍のいろは」とか「きょう一日、さむらいをした」とかの書籍を揃えておく必要があるでしょう。これでまた蔵書が増えた。全部架空の書名ですが。
インターネットを使うことで、この手間と時間とコストが激減できますが、目的に合ったサイトを見付けられるか、そのサイトに充分な情報があるかが作品に大きく影響するので、正確さを求めるならば近所の図書館の資料をインターネットで検索して予約し、調べに行った方がいいでしょう。

時代劇を書こうと思って見付けた侍の姿を説明するサイトは、小説の素材情報を提供する目的で作られたサイトではありません。大抵の場合、時代劇考証や積み上げた薀蓄を掲載していて、テレビの時代劇を見てその時代にこの装いはなかったとか、その身分の者が着ているはずがないとか、将軍自ら悪人を成敗しないとか、サイトを作る人が正しいと考える内容を掲載しているので、異論があっても必要な情報さえ見つかればそれでよしとします。くれぐれも、銭形平次が紐を解くのに手間取ったら逃げられる、とか、捕まえた後は銭を拾わなくていいのか、とか、寛永通寶四文銭は今の百円くらいだから小判を投げれば逃げずにすぐ捕まっただろう、とか、一枚足りなくて延々と探しただろう、なんて話にのめり込んではいけません。蕎麦切りが八文、掛け蕎麦が十六文か…。下手人も最初の痛みを我慢して二枚目を投げるまで待てば蕎麦が食える。

時代劇でなければ資料を調べなくてもよくなりますが、資料を用意しなければなりません。例えば宇宙人を登場させれば想像上の存在だから気楽に書けると思うと間違いで、宇宙人の姿を描写する段になって細部まで決めてなかったことに気付きます。身長は何センチくらいで、顔は目は鼻は耳は口はどうなってて、服は着てるのかその素材はどんな感じか、靴は履いてるか、慌てて出て来たので左右違う靴になっていないかなど。登場した時とその後で変わっちゃおかしいので、すぐに見られるようにノートに書くことになるでしょう。また蔵書が増えた。
宇宙人が喋る場合はどうしよう。「指輪物語」のトールキン言語学者で、登場するエルフの言葉、エルフ語を作り上げたそうです。発音や文字、方言もあるらしい。面白そうですが大変な手間が掛かります。

宇宙人語を作らずに済む方法を思い付いた。
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 一面に草の生えた田舎道を一台のトラックが走っている。ヴィクターが町で用事を済ませて農場に戻る途中だ。運転席のラジオから古いR&Bが流れて来た。
『この曲は前にコピーしたから弾けるぞ。バンドの集まりで話してみよう』
 ヴィクターは曲に合わせて口笛を吹きながら、今度のライヴのことを考えていた。そう言えば、さっきバーで飲んだスコッチがうまかった。メンバーのミーティングはあの店でもいいな。
 ところが森に差し掛かった当たりで、突然ラジオに雑音が混じり、エンジンの調子がおかしくなった。そのうちプスン、プスンと音を立ててトラックは止まってしまった。
「どうしたんだ!?」
 ヴィクターが何度キーを回してもエンジンが息を吹き返す気配はない。
「ちっ! ポンコツめ」
 どうしよう。まだ農場までは距離がある。その時だった。辺りが目映いばかりの閃光に包まれ、ブーンと言う音が聞こえて来た。
「何だありゃぁ!?」
 空からトラックよりも大きな光る球体が降りて来て、細い足が出て着地した。ヴィクターは声も出せずに見詰めるばかりだ。球体に黒い穴が開き、なんと! 宇宙人が姿を現してヴィクターに話し掛けたのだ。

「くぁwせdrftgyふじこlp」
「…。?(・_・?) ┐(-_- )┌」
「(・ω・) ふじこ…」
「┐( ̄▽ ̄;)」
「o(>◇<)o」

 通じないことを理解した宇宙人であった。

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カタログや Web コンテンツのコピーライティングでもインターネットで調べ物をします。資料が提供されなかった場合は特に、こちらは最低三ヶ所の別サイトで見付けた情報で、それぞれ別のソースと思われることを確認して、内容を咀嚼して自分なりにアレンジをして使います。
IT 系では三文字または四文字の頭文字の言葉が頻繁に登場し、ftp(ファイル転送プロトコル)などキャプションとして書くことがありまして、いつものようにいくつかのサイトを検索して解説を見たのですがどうも文章に見覚えがある。しばらく考えていて判った。

自分で書いたコピーだ…。

昔、ある企業のサイトで IT 用語辞書を作ることになって、百五十を超える用語リストを二人のライターさんと手分けして、五十語分くらい書いたことがあります。それでした。すっかり忘れてる。言葉をちょっと変えて使いました。