08.クリスマスの歌とマーケティング

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

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クリスマスになるとあちこちで流れて来るのが、松任谷由美の「恋人がサンタクロース」と山下達郎の「クリスマス・イヴ」です。ワムの「Last Christmas」とマライア・キャリーの「All I Want For Christmas Is You」なども定番ですね。
松任谷由美がインタビューで語っていましたが、
「当時クリスマスと言えばジングルベルやサイレント・ナイトのような歌が主流だったので、ロック系の歌を作ろうと思って、『恋人がサンタクロース』を書いたらヒットした。でも最近は、クリスマスは恋人と過ごすもの、と言う風潮を植え付けてしまったのではないかと後悔している(要約)」
とか。言われればこの歌からそんな雰囲気に変わったところもありますが、依然クリスマスは家族で楽しむもので子供中心のイメージがあります。ストロベリー・ショートケーキとお子様シャンペンと、そしてケンタッキー・フライドチキン。ケンタが定番になるのは結構最近のことですね。

調べてみました。
海外ではクリスマスに七面鳥を食べますが日本で七面鳥は食卓に上がらない。クリスマスに外国人が来店してフライドチキンを食べているのを見たケンタッキーの店員(の情報)により、「クリスマス・ケンタッキー」のキャンペーンが始まり、カーネル・サンダース人形にサンタクロースの衣装を着せたことなどで広まったらしい。因みにサンタクロースの衣装が赤くなったのはコカコーラのキャンペーンからで、それまでサンタクロースは緑の服を着ていました。
マーケティングの成果がそのまま習慣になってしまうことがあるんですね。鰻の丑の日もそうらしい。諸説あるようですが、江戸時代、夏に鰻が売れないので困った鰻屋が平賀源内に頼んだところ、源内は「本日丑の日」とでかでかと書いた紙を持って行って、これを店に貼っておけと言ったそうな。それを見た人が
「そうか! 今日は丑の日だった」
って、それで鰻を食べるようになったそうです。ほんとかなぁ。

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スーパー「みなもとや」の営業会議。谷部長の顔は暗い。
「実は、みなもとや今後の明暗を分ける事態が迫っている」
「どうしたんですか?」
「さっき判ったんだが…」
「わぁっ!」
 端で聞いていた鮮魚仕入れ担当の木下が机に突っ伏して泣き出した。他の社員は驚きを隠せない。
「ぼ、僕が悪いんです!」
「止めたまえ、木下。私が話す」
 谷部長は木下を制して社員達を見回した。
「年末に向けてあちこちの水揚げ状況を確認していたところ、函館でいいスルメイカが手に入ると言う情報が入った。そこでクリスマス前に集中的に販売しようと、急いで木下が発注した」
 社員達は頷いている。これがどう明暗を分ける話に繋がるのだろう。
「発注量を間違えた。多めに発注したつもりで、十倍の量を発注していた」
 しーん。
「どんくらいになるんですか?」
「十トンだ」
「十トンって言われても判んねぇなぁ。肉なら見当つくけどな」
スルメイカ一パイが約四百グラムだから、凡そ二万五千パイになる」
「二万五千パイ!」
 社員は店がスルメイカで埋め尽くされる様子を想像した。イカまたイカの売り場。誤って落としたスルメイカを踏んで滑って転ぶ店員の姿が見える。
「キャンセル出来ないんですか!?」
「さっき函館からこちらに向かっている船の船長から、『天気は快晴。海上に波なし』と、朗らかな東北弁で連絡があった」
「わぁっ!」
 木下がまた机に突っ伏す。谷部長がみなもとやの明暗を分けると言った意味が飲み込めた。
「どうするんですか?」
「それを相談したくて集まって貰った」
「社員が買うとか」
 谷部長は、判りきったことを、と言う顔をして手元のレポート用紙を取り上げた。
「すぐに処理できそうな数字を書き出してみた。社員二十三名、パートさんアルバイトさん十八名全員に十パイずつ買ってもらうとして、四百十」
「僕、百パイ買います」
 木下が呟く。谷部長は無視して続けた。
「五百十」
「五百です」
 経理の近藤が言う。谷部長は天井を見て
『あ、蛍光灯にクモの巣が張ってる。明日中村さんに頼もう』
それは置いといて言う。
「四十人が十パイずつで、一人だけ百パイで、五百か。それと、週末イベントで二週連続焼きイカコーナーを作ったとして、日に三百で二週で千二百。料理屋やレストランへの営業で四百。幼稚園や老人施設などに配ったとして五百。トータルで二千六百パイ。十分の一だ」
 社員達はがっかりして肩を落とした。
「店で残りを売るってのは無理だな」
スルメイカ専門のスーパーにして、スルメイカ常設試食コーナーを作ったら?」
「だめよ! 焼きたてパンコーナーが軌道に乗ったところなんだから!」
スルメイカ料理をずらっと並べる」
スルメイカ風呂はどうだ?」
「先着百名様に限り、スルメイカプレゼントってのはどうです?」
「いいね」
「どうせなら先着二万名様にしたらどうだ?」
 ガチャ。
「おお、加藤さん」
「遅くなりました。チラシの打ち合わせが長引きまして。あれ? 皆さんどうしたんですか?」
「加藤さん。問題が起きた。これまでの経緯を説明しよう」
 谷部長は遅れて入って来た広報宣伝担当の加藤に、スルメイカ誤発注のこととその対策について説明した。加藤はレポート用紙に書かれた数字などを見ながら考えていたが、決心したように口を開いた。
「全部やりましょう」
「えっ!?」
「うちは来店客数がよくて千五百だから、販売量から言っても一、二週間程度で売り捌けると思えない。となると、採算度外視でスルメイカを捨てることなく処分する方法を考えるべきだ」
「ざっと計算したが、とても二万五千に届かないんだよね」
 谷部長がレポート用紙を見ながら言う。
「原価のままでいいから何パイ売れれば赤にならないか、損益分岐の数字を出しましょう。それ以上の利益は一旦こちらに置いといて、まずはあらゆる方法でイカを捌くことを考える。損を減らすのが先だ」
「サンタクロースがイカ配ったら笑っちゃうよね」
「それ、行きましょう」
「ダイオウイカの子供とか言ったら受けるかなぁ」
「嘘になるので止めましょう」
 トゥルルル。電話が鳴った。
「はい。あ、社長。部長ですか? お待ちください。部長。社長から内線です」
 谷は電話を代わった。
「はい。ええ、そうなんです。はい。えっ!? 本当ですか? 判りました。早速連絡取ります」
 部長の表情が明るくなった。
「駅向こうのスーパーサンディさんで、半分の五トン、引き取ってくれるそうだ」
「えっ!?」
「やりましたね!」
「部長。そしたらサンディさんと共同で、クリスマスのスルメイカイベントをぶち上げませんか?」
「どうするんだね?」
「あーしてこーして、あそにも声を掛けて、あれも巻き込んで…」

イベントの一週間前からスーパーみなとや、スーパーサンディを初めとして、六台町駅周辺のあちこちに真面目そうなスルメイカをあしらったポスターが貼り出された。

冬至の焼きイカ大会開催

『私、まじめにスルメイカとして生きて来ました。生まれは函館沖。北海の荒波を乗り越え、釣り人の手を逃れ、体長十五センチ、体重四百グラムにまで育ちました。そして今、六台町商店街で焼きイカ大会があると聞き、大勢の仲間と共に駆け付けたのであります! 絶対においしいんです。食べてください』
日にちがイカに似ていることから、冬至に焼きイカを食べて冬を乗り切る習わしがあります。この季節、町の至るところに焼きイカ屋台が並び、町は焼きイカの香ばしい匂いに満ち溢れます。
年末に向かって慌ただしくなる前のひととき、浴びるほど焼きイカを堪能しませんか!
同時イベント開催:三月堂さん、ハルさん、イツギ、シスルギ、黒にわとり、ガロルフ、前触れ子、パブロ様など多数キャラクタ出演。

冬至の焼きイカ大会開催委員会
共催 スーパーサンディ、スーパーみなもとや

同じデザインのチラシは新聞に折り込まれて各家庭に配布された。
ガラッ。千月堂の戸が開いた。
「いらっしゃい、あら浩美ちゃん」
「ねぇねぇ、三月堂さんイベントに出るの?」
浩美は入って来るなりあんぱんを五個トレーに乗せながら聞く。
「え? イベント?」
「新聞のチラシにあったでしょ?」
「知らない。五百四十円でございます」
「焼きイカ大会だっけな」
「そんなのあるんだ」
「スーパーサンディと駅向こうのみなもとやの共催で、町じゅう焼きイカ大会らしいよ」
「ちょっと待って」
 夏子はリビングに行き新聞をバサッと開けてチラシの束を取り出した。
「これだ」
焼きイカ大会のチラシを持って店に戻った。
「そう、これこれ。町じゅうにこのポスターが貼ってあるんだよ」
「ハルさんも出演になってる…」

 鼻先案内犬番外編 ハルさんはこちら >> もう一編 >>

「夏子ちゃん、知らないの?」
「知らない。三月堂さんに直接出演依頼が来たのかも」
「へぇ? 三月堂さん、鼻先案内犬で有名になったんだね」

くふふふ。冬でも日向は暖かいぞ。

 鼻先案内犬シリーズはこちら >>

「でもさ、日にちがイカに似てるって、どこが似てるんだろう?」
「判んない」

冬至の焼きイカ大会当日は、駅周辺からスーパーサンディとみなもとやの駐車場まで焼きイカ屋台で埋め尽くされ、町中に焼きイカの匂いが漂った。ずらっと焼きイカ屋台が並ぶと、客は特定の店に集中することなく満遍なく店は賑わった。当たり前だが、ほとんどの客は集中的に焼きイカを食べた経験はなく、北海道ツアーで観光バスが止まる度に出くわす焼きとうもろこし屋台と焼きイカ屋台で食べた程度だったが、これだけの数の店と焼きイカを食べる人々を目にすると三食焼きイカでもおかしくなく思えて来るから不思議だ。

画して、みなとやの目論見は当たり、冬至の焼きイカ大会は無事終了し、懸念された大量のスルメイカを売り捌くことが出来た。

「いやぁホッとしたよ。加藤さん、ありがとう」
「いえ、売れてよかったですね」
「お客さんから、来年もお願いね、って言われたよ。しかし、日にちがイカに似てるなんて、よく見つけて来たね」
「あ、それ嘘ですから」
「は?」
「全く似てません。話題喚起を狙って適当に書いたコピーです」
「…」
明日から二日はクリスマスセールで、その後は年末年始セールが待っている。
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平賀源内の貼り紙で鰻の蒲焼きを買う人が増えて店は大繁盛したと言います。値段をいくらにしたのか判りませんが、「土用の丑の日」は安売りと刷り込まれたら習慣になるでしょう。
現在も蒲焼きを食べる習慣が残り、ファーストフード店も大々的に丑の日キャンペーンを行っています。それに何と!「うなぎ牛」と言う新種も発見したらしい。遺伝子操作の結果だろうか。

07.きょう一日、さむらいをした

 

「02.インターネットで調べ物」の中で書いた、架空の書籍名のうち「きょう一日、さむらいをした」と言う題名が気に入ってしまったので、お話にしてみようと思いました。

 

kusuda-fumihito.hatenablog.com

 

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 僕はさむらいの日に当たってさむらいになった。
 さむらいの日は誰にでもあるものではないし、全くさむらいにならない人もいる。何度も当たっちゃう人もいるらしい。うちは昔、叔父さんがさむらいになった時の道具が取ってあったので、お母さんが急いで借りに行った。叔父さんが、
「隆紀もそんな歳になったかぁ」
と言ってたらしい。
 僕は大学生だからいいけれど、社会人で当たる人も多い。
「今日は三人もいたよ」
とお父さんがこぼしていたことがある。ラッシュ時にホームでさむらいが出会って刀の鞘がぶつかり、果たし合いをするかで揉めたので、他の乗客が駅員さんを呼びに行って警官が来たりして大変だったそうだ。
 大学の食堂でさむらいの学生が出会ったのを見たことがある。長い髪で顔の半分を隠し、刀傷のシールを頬に貼った片方の学生は、両手を袖の中に入れて女生徒の取り巻きを引き連れ、坊主刈りに高下駄を履いたさむらいは学生服の連中が後ろに従っていたけど、二人共相手を見ながらも遠く離れて歩いていたのを覚えている。
 夜、朝倉から電話があった。
「さむらいの日に当たったんだって?」
「そうだよ。明日さむらいで学校に行く」
「実はさ、俺もさむらいの日になったんだ。明日さむらいで行くよ」
「へぇ!? 偶然だね。一緒に行こうか?」
「車を運転して行くから家まで行ってあげるよ」
「ありがとう。さむらいの格好で電車に乗るの嫌だったんだ。何時くらい?」
「戸田も二時間目からだろ? 九時過ぎに迎えに行く」

 翌朝の着付けは大変な騒ぎだった。お母さんがさむらい着付け教室の先生を頼み、着付けが終わると僕を真中にして記念写真を撮った。
「いいこと、隆紀。くれぐれも果たし合いなんてしちゃだめよ!」
「判ってるよ」
 刀を差して外に出ると、近所のおばさんが話の種にとずらり遠巻きにして立っていたのには驚いた。近所の人だけでなく区の腕章を付けた人が僕のさむらい姿を撮っている。
 車が来た。朝倉だ。目の前に止まり運転席から朝倉が顔を覗かせた。
「ファンクラブか?」
「あはは、違うよ。近所の人」
 朝倉は車を下りてうちの家族に挨拶し、僕は助手席のドアを開けて乗り込んだ。刀は膝の間に抱えた。
「行って来ます」
 車が走り出すと近所の人が拍手で送ってくれて気分がよかったのだけど、横を見ると朝倉の表情が硬い。どうしたんだろう?
「戸田」
「何だい?」
「俺のは羽織が大きくて皺で隠れてると思うんだけど」
 そう言いながら羽織を引っ張って家紋を見せた。
「あっ!」
 うちの家紋と同じ六文銭だ!
「お前の家に着いた時、六文銭を見て驚いた。お前の家も俺の家と同じ、真田家の家臣だったのかと」
「そうだ」
「やはりな」
 不思議な偶然に言葉もない。
「つかぬ事を聞くが、お主の家に真田家の財宝の在処を記した文書が残されておらぬか?」
「いかにも。しかしながら、文章が途切れて判らぬと祖父が申しておった」
「拙者が祖父に聞いたところ、大阪夏の陣にて幸村様が討ち取られた後、家臣が集まり財宝の在処を文書に記し、それをばらばらにして分けたそうだ。拙者の家にある文書、お主の家の文書、そして他の家臣の家にある文書を合わせれば」
「その謎が解けると申されるか?」
「然様」
 朝倉の表情は既に一介の大学生のそれではなく、真田家再興を願う一途なさむらいのそれに変貌していた。拙者も負けじと口を結んで前を見詰めた。

 大学校に到着す。
 朝倉は近隣駐車場に車を停め、我等は下車し帯刀し出口へ向かふ。駐車場小屋の番人車両番号と入庫時間を記録した紙片を朝倉に渡し
「仮装大会かね?」
と問ふも
「無礼な! 我等はさむらいの日に拠りて帯刀せしもの也」
と朝倉に反論され
「恐れ入りました! て、手討ちは何卒ご勘弁を!」
驚愕の表情を顕にし番人平伏す。
「戸田氏、参らうか」
「いかにも」
 公の場で「戸田氏」と丁寧語を使ふ朝倉に、さむらいの性根を据へた意気を感ず。拙者と云へば「いかにも」以外の文言が思ひ付かず悶々とす。大学校に向かふ途中、絢爛に着飾る女子学生を見受けるも眼中にあらず、意は真田家再興に在り。
「戸田氏」
「如何致した?」
「拙者は近代経済学原論講義に出席すべきなれど、欠席し文学部歴史学科への転入手続書面を調達しやうと存ず」
「よき考え也。我等の進む道は歴史学以外にあらずんば虎子を得ず。拙者も講義を欠席する所存にござる」
 朝倉は頷き、二人して事務を所轄せる転入担当窓口に出向く。
「頼もう」
「はい。何でしょう。おっ!」
「我等さむらいの日に拠り、彼の装束御免仕る」
「成る程。しかと了解仕りました」
 窓口担当者異を唱えず、経験在る也。
「文学部歴史学科転入手続きの書面を頂きたく参った次第」
「転入手続きの書類ですね。お二人分ですか?」
「いかにも」
 拙者が「いかにも」以外の文言を考へるうちに、担当者は書面を二部、転入申込控と共に寄越す。
「二千円です。ここに現在の学部名とお名前を書いてください」
 朝倉が窓口のぼうるぺんを手に取るや担当者は云ふ。
「矢立をお持ちではないのですか?」
「ぐつ!」
 朝倉は言葉に詰まつた。
「おさむらい様がボールペンなどお使いになられて、よろしいのですか?」
「持ち合わせがござらぬ。郷に入りては郷に従ふものでござる」
「苦しい言い訳ですな」
 せせら笑ふ担当者に朝倉は悔しさうに学部と名を記し、拙者も口を閉じ名を記す。封筒を渡され懐から西洋型財布を出しかけた朝倉を寸でのところで制す。
「あいや、待たれよ」
 さう言ひ乍ら拙者は懐より日本橋で買い求めし長財布を取り出す。
「これで如何か」
 かうしてジヤラ! 六文銭を取り出し窓口に。
「うぐ」
 担当者は二の句が告げぬやうだ。朝倉はにやりと笑みを浮かべ
「さらばじや」
と云ひ捨てる。
 帰りの車の中で朝倉が問う。
「いやはや痛快でござつた。其処許はよくあのような銭お持ちなんだ」
「叔父がさむらいの日に遣ひし六文銭の残り譲り受く」
「かたじけなひ。其処許のお陰で俄かざむらいの面目が立ち、恥を欠かずに済み礼を云ふ」
「何を申す朝倉殿。我等真田家再興が使命。他人行儀なしに願ひたい」
 朝倉は大きく何度も頷いて居た。

 家に着くと、朝と同じ様に近所のおばさん達がずらっと並んで、出掛けた時と同じ、拍手で迎えてくれた。門には両親と叔父と叔母、それにいとこまで立って待っていたのには驚いた。
「それじゃ俺はこれで」
「ありがとう」
「明日から、頑張ろうぜ!」
 朝倉は帰って行った。

 僕が着替えて居間に行くと、区役所から贈られた記念品のミニチュア刀と、お母さん特製の唐揚げとハンバーグ、叔母さんが焼いた苺のショートケーキが待っていた。
 パーティが始まり、さむらいの日が終わった。

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これはブログなので短めのお話ですが、電子書籍では生まれて一度も走ったことのない殿様の話を書いています。

 走殿(はしりどの)>> 

06.慣用句とかことわざとか

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

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「インカの串歌」を書いてから Web で Ruby のマニュアルやら説明を見たり、図書館で Ruby 本を借りたり、一頻り Ruby してました。大体思い出したけど、しばらく使わなければどうせ忘れます。必要になったらまた調べればいいや。

さて、小学校の国語のテストでは、教科書で習った慣用句やことわざの問題が出題されます。言葉と意味を線で結ぶ問題や正解を選ぶ問題、短文を書く問題が出されます。
「人ごみ」の答の中に「ごみのような人」ってのがありました。汚い感じの人を見たことがある子供なら、迷わずこれを選ぶでしょう。
お話で読んだ言い回しが出ると、「あ、これ知ってる」と喜んで正解に線を引いたものでした。学生時代は、話の中に慣用句やことわざを混ぜると物知りと思われて、ちょっと尊敬されますが、難しいことわざを使うと皆知らなくて逆効果になります。

「それは先生がだめだって言ってたし、臍を噛むことになるから止めとけば?」
「ほぞ、って何?」
「おへそのこと」
「どうしておへそを噛むわけ?」
「口が届かないよな」
「届かないから噛めなくて残念がるとか、後悔するって意味のことわざなんだよ」
「じゃ、最初っからそう言えばいいじゃん」
「言わなきゃよかったと臍を噛んだ」
「…」

よく使う言い回しは慣用句やことわざだけに限らず、口癖とか決まり文句にもあります。

「明智君、ひさしぶりだつたねえ」

「この印籠が目に入らぬか」

「月に代わって、おしおきよ!」

など、大勢の人が知っている文句は、色々なタイミングで使えます。

 

IT 系コピーのカタログや広告に、慣用句やことわざ、言い回しは使いません。

「新規システム導入の見積チェックでは、ソリューションベンダーに足もとを見られないように専門的知識を身に付け、こちらを見くびるプロマネに一泡吹かせてやりましょう。おためごかしに騙されないよう、見積で一杯食わされないよう、プログラム本数で頬被りされないように褌を締めてかかる必要があります。前システム担当者が煮え湯を飲まされて左遷された経験や、そろばんが合わなくなって専務が尻拭いをした経験などを肝に銘じて、今から腕を磨いておきましょう」

あり得ない…。意味が合わないと言うより、慣用句は人間の動作を表現しているため文章スタイルが合わないのです。
IT 製品のカタログでは、主語を使わない、敬語を使わない、ことわざなどの言い回しを使わないなど暗黙の表記規則があり、大企業になると表記例のマニュアルが用意されていたり、宣伝広報担当者が細かくチェックします。慣用句とかことわざは生活感に溢れているので、IT 製品と相性が悪いのでしょう。

サーバー製品のカタログを書くことになった時、著名なライターさんが担当していたけれど没にされたと聞きました。そして没の理由が
「このサーバーは企業の屋台骨を支える製品です」
と言うコピーのせいでした。担当者はこれが嫌だったそうな。確かに、「屋台骨」って言わないなぁ。ラーメンの屋台でとんこつスープを煮る雰囲気も漂って来る。そう言う言葉遣いをする人は他の部分も同じテイストで書いてるはずなので、随所にとんこつ感があったかもしれません。英語にすればよかったのだ。
「このサーバーは企業のバックボーンとなる製品です」

「ほうほうの体で」と言う言い回しがあります。これもビジネス文書などで使うことはありません。

「クライアントと打ち合わせ中、提出した見積の間違いを指摘されたため、ほうほうの体で逃げて来ました」

あり得ない…。

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「ほうほうの体で」と言う言葉は、お話を書くようになってから、一度使ってやろうと考えていました。七道奇談の「狐雨」で若旦那が驚いて逃げる場面で使いました。

 七道奇談 狐雨 >>

「慌てふためいて」も使いました。この手の「普段使わない言い回しリスト」を作って、順番に使ってやろうと計画しています。