11.三月堂さんにインタビュー

今日は、日本に三匹しかいない鼻先案内犬の三月堂さんにお話を伺います。三月堂さんは豆芝犬で、あんぱんがおいしいことで有名なぱん屋、千月堂さんのマスコット犬としても知られています。本日は大切なお昼寝の一部を頂きまして、お話を伺うことが出来ました。三月堂さんの飼い主、宮城谷夏子さんは途中からご登場頂くことになっています。

 鼻先案内犬シリーズはこちら >>

Q.三月堂さんは、残された匂いを辿って探し物をされますが、どの時点でその実体があると判るのでしょうか? おいしそうな匂いがするのであちこち探すけれど、どのお店から漂って来るのか判らないことがありますよね? 我々は中々匂いの元を特定できませんが、三月堂さんはどうなんでしょう?

A.探す匂いは、色の付いた雲の紐のようになって繋がって感じるのでそれを辿るだけです。探し物が近くなるとその紐が濃くなって匂いの元に繋がっていて判るんです。

Q.具体的に教えて頂けますか?

A.手袋とかの匂いを嗅いで、そこに残ってる匂いを追いますが、色んな匂いが付いてます。手袋をはめて持った工具、掴んだ袋、手袋が入ってたビニール袋、何よりはめていた人の手の匂い。石鹸や、摘まんだポテチの匂い、持った新聞紙の匂いとかも付いてます。そう言う匂いが組み合わさった手袋はそれしかないので、その匂いの雲の紐を追いかけます。だから同じ手袋が近くにあっても間違いません。そっちは違う匂いが組み合わさっていますからね。

Q.手袋の匂いだけでなくて、複合された匂いを追いかけてるんですね。あんぱんの匂いなどもそうですか?

A.はい。ぱん、餡、トッピングの胡麻の匂い以外に、作った人の匂い、出来上がった時に置いた紙の匂い、番重の匂い、ぱん工場の匂い、全てが一緒になって匂います。

Q.例えば音楽を聴いた時に、使われている楽器の音が別々に聴こえる、みたいなものですかね?

A.さぁ…、判りませんけど。

Q.私はずっとバンド活動をしてるんですが、最近になって楽器を始めた人の話を聞くと、曲を聴いて聴き取りたい楽器の音だけ聴き取ることが出来ないらしいんですね。ギターソロとか、はっきりする音は聴き取れてもバックでリズム的に入ってる音が聴き取れない。特にベースは低音なので音程が判りにくい。曲を音の塊として聴いてて、楽器ごとの音を抽出して聴けない。だから演奏をコピー出来なくて、譜面に頼ることになります。
話が外れました。質問を変えます。日本では、いつ頃から鼻先案内犬が導入されたのでしょうか?

A.鼻先案内犬財団に問い合わせて頂くと判ると思いますが、大正時代に最初の鼻先案内犬さんが導入されたと聞いています。ボクの大先輩ですね。当時の日本では、人間の用途に合わせて犬を教育する意識がなかったのでどの犬種が適しているか判らず、イギリスから犬さんを輸入して鼻先案内犬の教育をしたそうです。最初のうちは指示を与えるにも言葉が通じなくて苦労したと聞きます。深大寺の事件でも活躍したそうです。

 鼻先案内犬がまだ登場していない「深大寺線物語」はこちら >>

Q.成る程、イギリス犬語ですか。その鼻先案内犬も、さぞ手柄を立てられたのでしょうね。

A.犬が事件を解決するなど論外と思われていましたから。特に警察は動物に事件を任せるなど言語道断と決めつけていたようで、匂いを追いかけていて脇道に入ると、食べ物の匂いに釣られたと言われたらしいです。後で犯人が追っ手を巻こうと路地に入ったことが判って、改めて鼻先案内犬の能力に驚いたそうです。

Q.それは凄いですね!? 三月堂さんも食べ物の匂いに釣られたことはないんですね?

A.いえ…。あります。

Q.ごほん(咳込む)。質問を変えます。探し物をされていて記憶に残るエピソードとか、ございますか?

A.探し物を見つけると夏子さんからご褒美を貰えるのですが、年々質が落ちてまして、時には持って行くのを忘れることもあって、そろそろ改善要求を出さないとならないかと考えているところでありまして。一番おいしかったのはですね…。

Q.あのぉ、ご褒美の話じゃなくて、記憶に残るような探し物をお聞きしたいのですけど。

A.あは。色々なものを探したことがあるんですが、自分がそんなものの匂いまで嗅げたんだ、って言うのが我ながら驚きでした。

Q.どんな匂いですか?

A.病気に罹っている人の匂い。何となく普通の人と違う感じの匂いがするんです。それに、何か悪いことが起きそうな匂い。これは悪いことの匂いを嗅ぐと言うより、悪いことがその人に起きる前触れの匂いみたいのを感じます。

Q.前触れ、ですか?

A.ええ。あのぉ、記者さんから悪い匂いがします…

Q.えっ!? 私からですか?

f:id:kusuda_fumihito:20171015093606j:plain

「お待たせしました。お茶をお持ちしま、あっ!」
 ドッシーン! ガッチャーン! ガラガラ、ドーン。カラカラカラ。

10.コピーライターとライター

コピーライターとライターを区別をしていない人もいると思いますが、この二つは明らかに別の職業です。私の経験ですけど。
コピーライターは広告やカタログの文章を書き、ライターは新聞雑誌の記事を書きます。前者の発注主体は企業で、後者は新聞雑誌社です。

コピーライターは広告クリエイティブの仕事をします。広告ではその製品のどう位置付けて消費者に訴求するか考えます。もちろん開発担当者は「よいものを」と考えて開発していますから(偶然出来ちゃったケースもあるらしい)、開発側の想像を超える広告展開になって驚くこともあるようです。
その広告だけのためにアートディレクター、デザイナー、コピーライター、カメラマンなどが選ばれチーム編成され、同じメンバーで他の広告を制作することはありません。一期一会の世界ですね。毎回メンバーが違い、出遭ったデザイナーの名刺は百枚以上になります。私の経験ですけど。
コピーライターは資料があれば何でも書くので、これまでにホテルの朝食ポスターから遺伝子解析システムの紹介まで書いたことがあります。医療系、IT 系、法律系など専門知識が必要とされる分野では、それに詳しいコピーライターが重視されますが、詳しいからと言ってクリエィティブが得意とは限らないので、他のコピーライターのコピーチェックや監修に回ることもあります。

クリエィティブとは、平たく言えばでっちあげです。でっちあげと言っても嘘ではなくて「こう言う商品と考えることができるね」ってくらいのでっちあげで、その方が商品をイメージし易いからでしょうか。無理矢理作り上げたイメージは「無理クリエイティブ」略して「無理クリ」と呼ばれます。

小型デジタル一眼レフの広告展開を考えるとします。使い易さを重視し、コストも低く抑え、カラフルな関連商品を充実させた製品で、ユーザーアンケートの結果を元に開発されたそうですが、メーカーが原宿の店頭で行ったアンケートに

「軽い一眼レフが欲しい  はい  いいえ」
「カラーバリエーションがあるとよい  はい  いいえ」
「周辺グッズを充実して欲しい  はい  いいえ」

みたいな設問が紛れ込んでいたことは想像に難くありません。ユーザー動向と信じた開発陣がグラム単位で重量を減らした苦労が隠れていそうな気もします。
そうとは知らないクリエイティブ会議では
「軽くて簡単だから家族を撮ったりペットを撮るのにいいね」
「軽すぎてブレないかな?」
「手振れ補正が付いてますね」
「カラフルなストラップは女性向けだね」
「ペットを撮影する一眼レフってありだよね」
「それで行こう」
ってな感じで、ペット撮影に最適な一眼レフ、と言うイメージがでっちあげられて、湘南動物(動物タレントのプロダクション)に電話が行きます。カタログは白基調にパステルカラーを使ってデザインされ、女性がリビングでハブとマングースの戦いを撮影しているシーンを前面に、ペット入店 OK のカフェでカメラをテーブルに置いてオオアリクイと食事するシーン、青い空と大きな樹をバックに芝生を女性と八丈島キョンが駆けて来るシーンのカタログが作られます。
そうなると、撮影から現像引き伸ばしまで経験し、バライタ紙の仕上がりを語れ、三枚玉の味を語れて、カメラの歴史やメカニズムに詳しいコピーライターの出番はありません。

ライターは編集者に執筆を依頼されます。編集者が独走すると企画そのものが没になることもあり(私の経験ですけど)、一番いいのは編集長と懇意になって仕事を貰うことですが、編集長が変わると途絶えます(私の経験ですけど)。
ライターには得意分野があり、資料を渡されることはありませんし、IT 系が得意なライターに投資関連の記事やラーメン店の記事依頼は来ません。インタビューされる企業担当者はライターは他社製品を含めた業界に詳しく、同じジャンルの製品それぞれの善し悪しを知っていると勝手に想像していて(私の経験ですけど)、自社製品を適切に評価した記事を書いてくれると考えます。そんなに詳しくないと思うぞ。
ライターの書く記事には、新聞雑誌記事と記事広告があります。記事広告は記事体広告とも言って本来コピーライターの仕事なのでしょうけれど、記事と名前が付くからかライターに発注が来るようです。通常ライターの仕事は原稿を提出したらそこでお終いで、後は編集者が修正するので余程の事態でない限りライターは無罪放免です。このパターンに慣れているライターが記事広告を書くとトラブルが発生します。原稿は依頼した企業担当者が修正する訳ではなく、ライターに修正依頼(要求の度合が高いと修正指示と言う)が来ます。しかし、ライターには企業の気に入るまで修正する習性がないので、何度修正を依頼しても期待した原稿になりません(要求の度合いがもっと高いと書き直しと言う)。インタビューの場合、取材内容順に書くと単なるテープ起しになってしまうようです。取材を受けた相手は思い付くままに語っている訳で、最初の話と終わりの頃になって思い出した話が繋がっていることもある訳で、まとめないと読みにくくなります。
コピーライターは修正があれば下版(げはん=チェックの最終確認が終わり印刷に回せる段階)まで対応するのが当たり前です。書いた原稿をチェックして貰って修正し、それを紙面にレイアウトしてチェックして貰って修正し(このブロック 125 文字でキャッチ 32 文字など細かく指定される場合もあります)、印刷前の校正刷りでチェックして貰って修正し、最終的に入稿するまで対応します。何万部も印刷しますからね。OK を出した後でミスを発見し印刷所まで行って修正した、なんて話を聞きます。戦略的商品でページ数の多いカタログなどは、15 版以上校正刷りが出ることもあり、入稿前は印刷会社の営業を待たせて、担当者全員で明け方までチェックしました。因みにチェックで一番大変なのは裏表紙の性能緒言表で、細かい数字や文字の羅列をいちいちチェックしなければなりません。
不思議なもので、それでもミスが残っていたりするんですよね。5 年間誰も間違いに気付かなかったってのがありました。私の経験ですけど。

ある企業の製品群のカタログ制作で、コピーライターが足りないのでライターさんを手配するので、監修して欲しいと頼まれたことがありまして、上がって来た原稿を見たら、言い回しがカタログ調でなく雑誌記事のように書いていたのですぐ修正依頼をしたところ、後の修正は勝手にやってくださいとの返事。カタログは数本あったので、泣く泣く二週間徹夜が続きました。

 デザイナーの話をかいた「洗濯」はこちら >>

f:id:kusuda_fumihito:20170929080917j:plain

お話を書く作業は、コピーライター、ライターとも違います。これはまたそのうち。

09.結末は後で考えよう

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

 「楠田文人」で検索 >>

お話を書く場合は全体構成を考えて、いくつかの部分に分け、それぞれの部分で書く項目を考えて書き始めます。書きながら新しいアイディアがあれば付け足します。
例えば主人公が新しいキャラクタに出遭うところまで、洞窟から古い箱が見つかるところまで、みたいに部分をブロックに分けて書きます。お話そのもののアイディア出しはまた別で、ジャンルや種類によって方法が違います。
「鼻先案内犬」シリーズの場合は、三月堂さんが探し物をする内容に決めてあるので、何を探すか、どう探すか、手助けや邪魔が入るか、特徴的なキャラクタが登場するか、などを考えます。
鼻先案内犬 02 懐かしいの喫茶店」は、「記憶を探す」「三月堂さんが怪我をする」と言うテーマを考えて、誰の記憶で、どんな内容、三月堂さんはどこを怪我するか、痛くない方がいいな、など想像を広げて行きました。「鼻先案内犬 11 小粒犬」は、豆粒みたいな小さな犬がいたら面白いかも、って思い付きから話を広げ、他の要素を足して行きました。このようにテーマ(平たく言えば思い付き)から入る方法は、はっきり結末を決めていないことがあり、思い付いたところまで一気に書いて、続きはさあどうしよう、と悩むことになります。そのうち思い付くだろう、尻切れにならないよう何とかしなくちゃ、など色々な展開を考えているうちに次第に流れが見えて来て形になります。
テーマは割と簡単に思い付くので、アイディアと大雑把な構成だけならストックがありますが、最後まで書いてまとめる方が大変な作業です。連載の形にしたら、作者に先が読めないのだから読者は尚更先が読めなくて、どうなるんだろう、と思いながら読むでしょうけど。

違うアプローチもあります。「七道奇談 紙魚」ではイメージを重視して、満月の夜、川に映る満開の桜、風に揺れる竹林、青い朝靄、水墨画などを散りばめました。お話の内容も、情景を描写しやすいシーンを考えて、それをつなげる形で展開しました。イメージ中心であることを特に説明していないので、読んだ方は、他のお話よりイメージが伝わって来るな、くらいに思われたかもしれません。
 七道奇談 紙魚 >>

「七彩抄 蒼池」もイメージ先行型です。雪深い山奥にたたずむ小さな池。晴れた日には空が映り込んで真っ青に輝き、やがて白鷺が舞い降りて来る。ここで繰り広げられる物語は誰にも知られることはない、と言う感じです。
 七彩抄 蒼池 >>

思い付いてから書き始めるまでに時間が掛かった作品もあります。テーマはいいんだけど、途中からの展開はどうすんだよ、って自問自答が続いて先が見えない。とりあえず資料を集めて整理しているうちに、ふとしたことで展開を思い付いて急に書き進める。それまでは放って置く。
思い付くタイミングは、①散歩している時、②夜中お布団の中、③明け方、が多いのは何故なんでしょうね。そのせいでメモ帳を持ち歩くようになり、枕元にもメモ帳を置くようになりましたが、かなりの頻度で使用しています。話が外れた。

思い付いてから完成まで一番時間が掛かった作品は「東多魔川鉄道物語」です。
 東多魔川鉄道物語 >>

最初思い付いた時は全く違うお話でした。言わば民話を集めたものを想定していて、題材をインターネットで探したり、図書館で探しました。イメージを膨らませるうちに、どんどん違う方向に発展して長いお話になりましたが、最初はこんな感じを考えていました。


【東多魔川鉄道物語 使わなかった話】
 正樹は海苔寺(のりでら)跡を探していた。近くの農家で聞いた通りに歩いて来たはずなのに見つからない。農家の爺さんは林の中に「海苔寺跡」と書かれた石碑が立っていると言っていた。しかし、いくら探してもそんなものは見当たらないのだ。
「どうしよう。野田さんの家に戻ってみるか…」
 引き返してもう一度爺さんに聞こうか、それとも日を改めようかと考えた。石碑の場所に駅舎を建てることになっているため、見つからないと計画が一日遅れてしまうし、わざわざ調査に来た意味がない。
『もう少し進んだら引き返しそう』
 正樹は落ち葉を踏みながら林の中を歩く。石碑のことばかり頭にあって気が付かなかったけれど、帝都の南にもこんな雑木林が残っていたのだ。今更ながら武蔵野の広さに驚く正樹だった。
『あれ? この場所はさっき通ったかな』
 低木の枝の付き方に見覚えがあった。一本だけ突き出した細い枝の先に、黄緑と黄色の蕾が付いている。左が黄緑で右が黄色。
『全く同じ形の枝がある? さっきの場所に戻って来たというのか?』
 林の奥へと進んでいたはずで戻った感覚はなかった。狐に化かされて、同じところをぐるぐる回った人の話を聞いたことがある。自分もその口か。
「一休みするか」
 正樹は近くの岩に腰掛けた。時計を見ると、もう二時間も林の中を歩いている。
「足も痛くなったし、さてどうしよう」
 考えているうちに眠ってしまった。
 夢の中で正樹は岩に腰掛けていた。こちらに向かって歩いて来る白いものが目に入った。ほっそりとした白猫だ。白猫は正樹の前まで来ると、ニャァと鳴いて再び林の中に入って行き立ち止まってこちらを振り返った。
『ついて来いと言っているみたいだな』
 正樹は立ち上がり白猫の後を追った。
『さっきの低木だ』
 見覚えのある低木だ。白猫はニャァと鳴いて低木の下を潜り、向こうの茂みに入って行く。正樹もそれに従った。白猫が振り返る。
「こっちは見ていないな。おっ!」
 茂みを抜けた正樹の前に現れたのは苔に覆われた大きな石碑だった。紛れもなく「海苔寺跡」の文字が刻まれている。白猫の姿はない。
 ハッと目が覚めた。今のは何だったのだ。白猫のお告げだろうか。
「よし。さっきの低木の向こうを探してみよう」

f:id:kusuda_fumihito:20170818091451j:plain

こんな感じで民話調のお話を考えていましたが、書き進むうちに長い話に発展して、自分でもかなり楽しんで書きました。
「続・東多魔川鉄道物語」を考えています。