82.うっとぉしい季節です

電子書籍を書いています。楠田文人です。
 電子書籍はこちら >>
日本語の表現で「うっとぉしぃ」「かぃがぃしぃ」「おどろおどろしぃ」と言う雰囲気が気になりました。梅雨の時期の言葉としては打って付けの気がしたけど、使われるのは限られた分野だけだし、余り使われないし。ならば似たような響きの言葉を考えてみよう。

「ぬっとぉしぃ」
「くっとぉしぉ」
「ずっとぉしぃ」
「むっとぉしぃ」
「ねっとぉしぃ」

う~む。嫌な感じを出していることは伝わるけど、嫌な感じ以外の意味を持たせられない。じゃあ、この嫌な感じをどう使うか。嫌な感じ専用の形容詞か。

「えーい、下がれ下がれ! このぬっとぉしぃ奴等め!」
「くっとぉしぃ奴め。ここに、控えおわす方をどなたと心得る! 先の副将軍水戸光圀公に在らせられるぞ」
ぬっとぉしぃ連中がわらわらと寄って来て、ご隠居様を取り巻く。
「えーい、下がれ下がれ!」
「ずっとぉしぃぞ!」
ご隠居一行に引き寄せられて集まって来たずっとぉしぃ連中が道を塞ぐ。助さん格さんは、触るのが気持ち悪いなぁと思いつつ、役目があるので、ぬっとぉしぃ連中を遠ざけなければならない。時と場合に寄っては、第一種接近遭遇になること止むを得ない。
「なんでこんなに、むっとぉしぃんだ!」
「助さんが、ねっとぉしぃからじゃ、ありませんかね」
「そうか! あれ? もしかしてあっしが悪いのか?」
「助さん。やっと気付いたんですかぃ?」
「そうだったんか…」
「いっつも悪いのは助さんじゃよ」
「ご隠居。そりゃねーでやんしょ!」
気分を悪くした助さんは、身を張ってご隠居を守るのを止めた。それを見たむっとぉしぃ連中はこれ幸いと、一層ご隠居一行に迫った。ところがご隠居一行を守るの止めても、理由はむっとぉしぃ連中に伝わらない。抵抗しなくなり邪魔がなくなったと勘違いした程度だ。

話が違う方向に向かってしまった。

f:id:kusuda_fumihito:20200613151146j:plain

「ご隠居。それじゃ、なんて呼べばいいんですか?!」
むっとぉしい連中を両手で避けながら、助さんは顔をご隠居の方に向けて聞く。ご隠居も杖でずっとぉしぃ連中を祓い除けながら答える。
「歳を取ると忘れっぽくなっていかん。なんと言う名前だったかのぉ?」
「ええい! 下がれおろぉ!」
格は両足をぬっとぉしぃ連中に掴まれて動けなくなった。
「わわっ! こっちも動きが取れなくなるぅ!」
「助けてくれぇ!」
ご老公ご一行に、うっとぉしぃ連中が覆い被さって行った。

なぁんて、嫌な夢を見て汗びっしょりで夜中に目を覚ます、ことのないように。