42.れうやく くちに すっぱし

電子書籍を書いています。楠田文人です。
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「良薬、口に酸っぱし」は、「あの夏の日、ガロルフは窓からやって来た」で、ハヤシがガロルフに貰ったブルーベリーを口にした時の言葉です。
 「あの夏の日、ガロルフは窓からやって来た」はこちら >>
ガロルフ達森の妖精は果物を食べます。ガロルフは殊にブルーベリーが好物ですが、彼らの好物と人間の言う好物は意味が違います。ガロルフにとってブルーベリーはなくてはならぬ物なのです。
ガロルフなど森の妖精達はコンビニスィーツなんぞ知りませんから、果物が一番甘い。酸っぱさも同じ。森の果物が基準になります。栗まんじゅうなんぞあげたら大騒ぎになってしまいました。
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「良薬口に苦し」
何故良薬は苦いんだろう。調べてみました。孔子の言葉で、「進言してくれるのはありがたいけど、きついことを言われると聞きづらい」って意味ですね。孔子だから三国時代、紀元 200 年くらいの書物に残っているそうです。
三国時代の薬と言うと漢方薬でしょう。私は漢方薬を飲んだことがないのですが、漢方薬の原料は木の根など植物で、苦い、不味いものが多く、蜂蜜と混ぜたり、ゼリーにして飲むそうです。杏仁豆腐も、元は薬を飲ませるために医者が考え出したらしい。子供の頃の苦い薬はオブラートに包んで飲みました。でも、口の中でオブラートが破けてしまうと、薬がこぼれて苦さが口中に広がる。
苦かったり、不味かったりしないと薬と認められなかったのではないだろうか。

「殿、新しい薬にござります」
湯飲み茶碗が三宝に乗せられて殿の前に出て来た。
「おお、きれいな薄紅色じゃ。どうせ不味いのじゃろ?」
「いいえ、今度の薬は見た目同様に味もおいしくなっております」
「本当か?」
「御意」
「これ、虫若丸。毒味をせい」
横に座っていた毒味役の虫若丸が前に進み出た。
「お毒味、致しまする」
虫若丸は殿の前に置かれた三宝から薬の入った茶碗を取ると、一口味わってから茶碗の中を見詰め、そしてぐいっと飲み、目を瞑って天井に向いた。
「如何じゃ?」
殿が聞いた。目を開けた虫若丸は答えた。
「天井に蜘蛛の巣が張っております」
「そうではない。味を聞いておるのじゃ」
「滅法おいしゅうござります。苺のような果物の香りが鼻を抜け、口の中に甘みが広がります。今までこのような薬は頂いたことがございません」
「ほう! 苺の香りと甘みとな!? 然程うまい薬なら嫌がる者はおるまい。善い薬を作ってくれた。感謝致す」
虫若丸が急に立ち上がって部屋を出て廊下を駆けて行った。
「どうしたのじゃ?」
 医師は帳面を捲って慌てている。
「申し訳ございません。薬を間違うておりました。これは強力な下剤にござります」

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薬は見た目で判断出来ません。効くか効かないか、おいしいか不味いか。飲む前に「良薬、口に苦し」と言われると、その薬が苦いと思ってしまうでしょう。
昔、沖縄で食べたフライ。見た目で、ポテトフライかササミのフライと思って口に入れました。そんな色をしてたもので。ところがバナナのフライだった。南国だと果物を揚げるらしい。口の中は甘い物を待ち構えていなかったので、一瞬、混乱しました。少々のしょっぱさを宛てにしていた脳が、違う信号を送られたため判断を間違ったと思ったようでした。でもその後、口の中も脳も納得して、不思議に思いつつ食べたのでした。