39.来年のことを言っても鬼が笑えない話

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「年明けに、鬼退治をするんだそうだ」
「げっ! 本当か?」
「どこから聞いて来たんだ?」
「嘘じゃないのか?」
その話を聞いた鬼達は大騒ぎだ。
「来年のことだから、笑ってもいいのか?」
「お前、笑えるか?」
「笑えない…」
話した鬼は周りの鬼達を見回して言った。
「今日の午前中、例の桃太郎会議があった」
「桃太郎の動向を探る会議だな?」
他の鬼達も頷く。
「今年、俺は委員だからな。議長が言うには、諜報役の寝たきり雀から聞いた話として、桃太郎が、昔仲間の犬、猿、雉を集めて宴会をしたらしい。そこで鬼退治をして遊ぼうと言うことになったそうだ」
「よく、そんな危険な宴会に寝たきり雀が忍び込めましたね?」
「女中の振りをしたそうだ」
「へぇ」
着物姿をした女中の寝たきり雀を想像した。頭がまんまるだからかなり不格好になる。ちょと無気味だ。
ダンッ!
「まさか!」
一人の鬼が机を叩いて立ち上がった。
「鬼ヶ島復興計画が漏れたのでは!?」
「何だって?」
「そりゃ大変だ!」
鬼達は一斉に騒ぎ出した。
「あれが桃太郎にばれたら、かなりやばいぞ!」
「来年まで待ってらんねぇな」
その昔、桃太郎達が鬼ヶ島に勝手に攻め入り、甚大な被害を与えて鬼ヶ島の機能を停止させた。被害からやっと立ち直った鬼達は、銀行から莫大な借金をして鬼ヶ島を一大リゾートに変身させようと、こっそり復興計画を進めて来たのだ。それが桃太郎の耳に入ったとしたら復興計画が水の泡と化してしまう。やつらは、楽しみのために破壊活動を行うに違いないのだ。
「どうすればいいんだ…」

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ふと思ったのですが、鬼は悪いのが当たり前で、いい鬼と言うのは存在しません。と言うか、鬼そのものが存在しないので、我々日本人の意識にある鬼は悪いやつに決まっています。鬼は、デュルケームの集合的諸意識、もしくは吉本隆明共同幻想に当たるのかも。