23.盗人について考える

電子書籍を書いています。楠田文人です。

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「ぬすびと」「ぬすっと」に関する諺は、やたらたくさんあります。江戸時代は刑罰が厳しく鍵を掛ける必要がない程に安全だったそうですから、盗人も少なかったと思うのに、諺がたくさんあるのは何故だろう。

1) 盗人が少ないから珍しく、たまに事件があるとやたら大騒ぎになり、盗人が強く印象付けられた
2) お上が盗人ゼロ運動を展開していたため、より一層気を付けるように全国の代官所で諺を募集した
3) 人類とは別の種族だったので未来に向けて記憶を残そうと諺が出来た

どうも違う気がする。

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盗人猛々しい
「たけだけしい」です。「もうもうしい」ではありません。猛々しいとは、元々「勇ましい」と言う意味だったのが「図太い」と言う意味に変わったそうです。
盗人が音を立てないようにそうっと暗い部屋に忍び込んだにも関わらず、気付かれて明りがぱっと点されて
「あっ! しまった」
「観念しろ!」
捕まって開き直り
「ええい、煮るなり焼くなり好きにしろい!」
と喚き、どっかと腰を下ろす。
「盗人の癖にふてぶてしい野郎だ!」
「盗人猛々しいとはこのことだな」
とまあ、こんな感じですね。母が起きて来た。
「どうしたの?」
「盗人だ。猛々しいやつで、煮るなり焼くなり、好きにしろ、だってさ」
「あら、盗人煮は先週やっちゃったし、盗人焼きは子供達はあまり食べないのよ。捨てるのも勿体ないしねぇ」
盗人は音を立てないようにそうっと忍び込んでいるんだから、その段階では猛々しくない。最初から猛々しかったら、入って来たところで判ってお縄になっちゃいます。捕まって開き直らないとこの諺は機能しません。

盗人に追銭
「盗人だぁ!」
「待てぇ!」
盗人は夜の通りを逃げて行く。
「えぃ」
ピシッ!
「痛ぇ。何だこりゃ、銭じゃねぇか」
盗人は一瞬立ち止まり、ぶつけられた銭を拾う。追っ手が近付いて来る。
「いけねぇ」
盗人はまた走り出す。ピシッ!
「痛っ。また銭か」
盗人はまた立ち止まり、ぶつけられた銭を拾って走り出す。ピシッ!

さてここで問題です。盗人が銭をぶつけられる度に立ち止まって銭を拾います。その間追っ手は七歩、間を縮めることが出来ます。追っ手は一度に五銭銅貨しか投げることができない上、立ち止まって構えるためその間に盗人は五歩逃げてしまいます。何銭投げれば追っ手は盗人を捕まえることが出来るでしょう。投げた銭の三割は戻って来ないものとします。正解された方の中から抽選で、残った追銭を差し上げます。

盗人を捕らえて縄をなう
「段取りが悪い」「用意不足」の印象は否めませんが、縄をなうためには材料が必要となる藁は用意してあったことになります。まだ縄をなっていなくて、土間の端に放って置きました。盗人が来て捕まえたら縄で縛るつもりで置いといたのはいいけど、用意したところで満足して休んでしまったに違いない。
田舎にある農家の場合と町中では、これまた状況が違います。農家なら縄をなう藁は探せばどこかにあるけど、町中にはない。町中の場合は
 盗人を捕らえて縄を買いに行く
 盗人を捕らえて隣の縄を盗む
ってとこでしょう。

盗人算(ぬすびとざん)
そんなのがあったんですね。知りませんでした。和算の書「新編塵庚記三目録第十」に登場します。

新編塵庚記三目録より
「第十 きぬぬす人を知る事
さる盗人、橋のしたにて、きぬをわけとるをみれば、八たんづゝわくれば七たんたらず、叉七たんづゝわくれば八たんあまると云。ぬす人の数もきぬの数もしれ申候」

小学校算数の過不足算でした。7 反ずつ配った余り 8 反を配っても 7 反不足したので、15 反あれば分け切るから盗人は 15 人。布の数は 113 反。しかし…、15 人の盗人ならば頭がいないと統率が取れないはず。実際は 7 反ずつ分けて、残った分を全部頭が取ったのではないだろうか。

「さる盗人、橋のしたにて、きぬをわけとるをみるに、八たんづゝわくれば七たんたらず、七たんづゝわき、あまり八たんすべて頭にわくると云。ぬす人の数もきぬの数もしれ申候」

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残りの解説は全部盗まれました。

■盗人に鍵を預く
■盗人にも三分の理
■盗人のあと棒乳切木
■盗人の上前を取る
■盗人の逆恨み
■盗人の隙あれども守り手の隙はない
■盗人の昼寝
■盗人の足
■盗人萩
■盗人宿

まだまだあります。