16.脱力感の残るお話を書く

お話には色々な種類があります。自分で書くお話は「あー、面白かった」と言えるお話をメインにしています。その中でも「すっきりする話」「ほっこりする話」「くすっとする話」などを書くようにしていますが、時々「脱力感の残る話」を書きたくなることがあります。
「あぁあ・・・」って感じ。
 脱力感をイメージした「長靴を嗅いだ猫」はこちら >>
「鼻先案内犬番外編 ハルさんの話」も、脱力感を意識しています。ハルさんは、鼻先案内犬の三月堂さんの母犬で、若干の天然ボケのある犬さんです。
 鼻先案内犬番外編 ハルさんの話はこちらと >> もう一つこちら >>
脱力感の残るお話は結構難しくて、面白くて脱力感の残る読後感のお話となると中々うまく書けません。そんなもん書くなって? いやー、書きたいことがあるんですよ。

「待ちかねたぞ、武蔵」
「いやー済まん、済まん。実はさ、出がけに洗濯物を干して出ようと思って、物干竿を拭いてたら、何かあっちの空が凄い曇ってんじゃん。仕合いが済んで戻って洗濯物が雨で濡れてたら嫌だと思ってさ、どうしようか考えて部屋の中に干すことにして、部屋の中に物干竿を掛けるとこ探してたら、天井に蜘蛛の巣を見付けてさ」
「それでどうした?」
「丁度いいと思ってさ、物干竿で蜘蛛の巣を取ろうとしたら、反対側で障子にぶすっと穴を開けちゃってさ、慌てて振り向いたら今度は蜘蛛の巣に向けた側が襖にぶつかってさ、ちょっと穴が開いちまってさ、で、あっと思ってまた振り向いたら、障子にもう一つ穴を開けちまったんだよ」
「それは難儀であった。いざ、仕合おうぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。まだ続きがあるんだ。全部話さないと気が済まん」
「仕方ない奴。話せ」
 武蔵は近くにあった岩に腰掛けた。
「小次郎、おぬしも立ってないで座れ」
 小次郎も渋々近くの岩に腰掛ける。
「それでな、障子と襖の穴をどうしようかと思ってさ。こんくらいの穴が開いたんだよな」
 武蔵は指を丸くして穴の大きさを再現した。
「貼り直してたら遅れちゃうし、とりあえず物干竿を畳に置いて穴を見てたんだ。そしたら、押し入れの中でがさごそ音がするんだよ!」
「それで?」
 小次郎はじれったそうに聞く。
「そーっと襖を開けたら、ぱっと飛び出して来たのは一匹の白猫と二匹のネズミだったんだ」
「飼ってるのか?」
「飼ってない。よそから入って来たらしい。そんで、猫がネズミを追ってるとばっか思ってたら、猫がネズミに追われてたんだな。壁の前で猫が両側からネズミに挟まれてさ、動けなくなったんだ」
「ニ対一か」
 武蔵は構わずに続けた。
「猫が前に動こうとするとネズミが飛び掛かる振りをするんだ。猫も痛い目を見るのは嫌だからすっと元の位置に戻る。そんで、後に動こうとするともう一匹のネズミが飛び掛かる振りをするんで、猫はまた元の位置に戻る」
「それで?」
「どうなったと思う?」
「どうなったのだ?」
「庭からにゃぁ、と声がしたと思ったらもう一匹、今度は黒猫が現れてネズミ達に向かって行った」
「ニ対ニになったのか」
「そうだ。ネズミ達もこれには慌てて猫とネズミは並んで向かい合う形になった」
「ふむ。それで猫がネズミを仕留めてお終い、って訳だな。それでは仕合おうぞ」
「いや、まだ続きがあるんだ」
「まだあるのか!?」
「まだある。全て話さんと死んでも死に切れん」
「仕方ない奴だな。話せ」
 小次郎はそばに刀を置き柔軟体操をしながら聞いた。
「今度は廊下からネズミが一匹、現れた」
「ネズミが?」
「そうだ。ニ対三になったんだ」
「また猫が不利になったのか」
「そう思うだろ? 儂もそう思った。ところが・・・」
「ところが? どうした。早く話せ」
 プーン。蚊が一匹、武蔵と小次郎の間を飛び抜けて行き、二人は暫し羽音を追った。

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「それで?」
 小次郎が急かせる。
「猫が庭に逃げてネズミが追って行った」
「戦ったのか? どちらが勝った?」
「いや、三毛猫が一匹現れた」
「三対三になったのか!?」
「そうだ。猫とネズミが庭で睨み合っていると、横の茂みから猫達が、物置小屋からネズミ達がわらわら現れた」
「この話はいつまで続くのだ?」
「まだ終わらない」
「仕合う気がなくなった」
 小次郎は疲れた顔を見せた。
「五十匹を越えた時のことだ」
「五十匹だと!? 数えたのか」
 小次郎は目を丸くして聞いた。
「大勢の敵に襲われた時のことを考えて、素早く相手の人数を勘定する訓練をしているからな」
「何が起きた? 犬でも現れたのか」
「空が暗くなり、突然雨が降り出したのだ」
「曇ってたと言っておったな」
「雨に濡れながらも睨み合っていた猫とネズミが、諦めたように茂みの方と物置小屋の方に分かれて戻って行った」
「合戦はお流れか」
「ところがその時、大変なことになった」
 小次郎は空を見上げて言った。
「今日の仕合いは止めよう。仕切り直しだ」
「話はまだ続くんだ」
「…」

中々脱力感は出ないですね。