09.結末は後で考えよう

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

 「楠田文人」で検索 >>

お話を書く場合は全体構成を考えて、いくつかの部分に分け、それぞれの部分で書く項目を考えて書き始めます。書きながら新しいアイディアがあれば付け足します。
例えば主人公が新しいキャラクタに出遭うところまで、洞窟から古い箱が見つかるところまで、みたいに部分をブロックに分けて書きます。お話そのもののアイディア出しはまた別で、ジャンルや種類によって方法が違います。
「鼻先案内犬」シリーズの場合は、三月堂さんが探し物をする内容に決めてあるので、何を探すか、どう探すか、手助けや邪魔が入るか、特徴的なキャラクタが登場するか、などを考えます。
鼻先案内犬 02 懐かしいの喫茶店」は、「記憶を探す」「三月堂さんが怪我をする」と言うテーマを考えて、誰の記憶で、どんな内容、三月堂さんはどこを怪我するか、痛くない方がいいな、など想像を広げて行きました。「鼻先案内犬 11 小粒犬」は、豆粒みたいな小さな犬がいたら面白いかも、って思い付きから話を広げ、他の要素を足して行きました。このようにテーマ(平たく言えば思い付き)から入る方法は、はっきり結末を決めていないことがあり、思い付いたところまで一気に書いて、続きはさあどうしよう、と悩むことになります。そのうち思い付くだろう、尻切れにならないよう何とかしなくちゃ、など色々な展開を考えているうちに次第に流れが見えて来て形になります。
テーマは割と簡単に思い付くので、アイディアと大雑把な構成だけならストックがありますが、最後まで書いてまとめる方が大変な作業です。連載の形にしたら、作者に先が読めないのだから読者は尚更先が読めなくて、どうなるんだろう、と思いながら読むでしょうけど。

違うアプローチもあります。「七道奇談 紙魚」ではイメージを重視して、満月の夜、川に映る満開の桜、風に揺れる竹林、青い朝靄、水墨画などを散りばめました。お話の内容も、情景を描写しやすいシーンを考えて、それをつなげる形で展開しました。イメージ中心であることを特に説明していないので、読んだ方は、他のお話よりイメージが伝わって来るな、くらいに思われたかもしれません。
 七道奇談 紙魚 >>

「七彩抄 蒼池」もイメージ先行型です。雪深い山奥にたたずむ小さな池。晴れた日には空が映り込んで真っ青に輝き、やがて白鷺が舞い降りて来る。ここで繰り広げられる物語は誰にも知られることはない、と言う感じです。
 七彩抄 蒼池 >>

思い付いてから書き始めるまでに時間が掛かった作品もあります。テーマはいいんだけど、途中からの展開はどうすんだよ、って自問自答が続いて先が見えない。とりあえず資料を集めて整理しているうちに、ふとしたことで展開を思い付いて急に書き進める。それまでは放って置く。
思い付くタイミングは、①散歩している時、②夜中お布団の中、③明け方、が多いのは何故なんでしょうね。そのせいでメモ帳を持ち歩くようになり、枕元にもメモ帳を置くようになりましたが、かなりの頻度で使用しています。話が外れた。

思い付いてから完成まで一番時間が掛かった作品は「東多魔川鉄道物語」です。
 東多魔川鉄道物語 >>

最初思い付いた時は全く違うお話でした。言わば民話を集めたものを想定していて、題材をインターネットで探したり、図書館で探しました。イメージを膨らませるうちに、どんどん違う方向に発展して長いお話になりましたが、最初はこんな感じを考えていました。


【東多魔川鉄道物語 使わなかった話】
 正樹は海苔寺(のりでら)跡を探していた。近くの農家で聞いた通りに歩いて来たはずなのに見つからない。農家の爺さんは林の中に「海苔寺跡」と書かれた石碑が立っていると言っていた。しかし、いくら探してもそんなものは見当たらないのだ。
「どうしよう。野田さんの家に戻ってみるか…」
 引き返してもう一度爺さんに聞こうか、それとも日を改めようかと考えた。石碑の場所に駅舎を建てることになっているため、見つからないと計画が一日遅れてしまうし、わざわざ調査に来た意味がない。
『もう少し進んだら引き返しそう』
 正樹は落ち葉を踏みながら林の中を歩く。石碑のことばかり頭にあって気が付かなかったけれど、帝都の南にもこんな雑木林が残っていたのだ。今更ながら武蔵野の広さに驚く正樹だった。
『あれ? この場所はさっき通ったかな』
 低木の枝の付き方に見覚えがあった。一本だけ突き出した細い枝の先に、黄緑と黄色の蕾が付いている。左が黄緑で右が黄色。
『全く同じ形の枝がある? さっきの場所に戻って来たというのか?』
 林の奥へと進んでいたはずで戻った感覚はなかった。狐に化かされて、同じところをぐるぐる回った人の話を聞いたことがある。自分もその口か。
「一休みするか」
 正樹は近くの岩に腰掛けた。時計を見ると、もう二時間も林の中を歩いている。
「足も痛くなったし、さてどうしよう」
 考えているうちに眠ってしまった。
 夢の中で正樹は岩に腰掛けていた。こちらに向かって歩いて来る白いものが目に入った。ほっそりとした白猫だ。白猫は正樹の前まで来ると、ニャァと鳴いて再び林の中に入って行き立ち止まってこちらを振り返った。
『ついて来いと言っているみたいだな』
 正樹は立ち上がり白猫の後を追った。
『さっきの低木だ』
 見覚えのある低木だ。白猫はニャァと鳴いて低木の下を潜り、向こうの茂みに入って行く。正樹もそれに従った。白猫が振り返る。
「こっちは見ていないな。おっ!」
 茂みを抜けた正樹の前に現れたのは苔に覆われた大きな石碑だった。紛れもなく「海苔寺跡」の文字が刻まれている。白猫の姿はない。
 ハッと目が覚めた。今のは何だったのだ。白猫のお告げだろうか。
「よし。さっきの低木の向こうを探してみよう」

f:id:kusuda_fumihito:20170818091451j:plain

こんな感じで民話調のお話を考えていましたが、書き進むうちに長い話に発展して、自分でもかなり楽しんで書きました。
「続・東多魔川鉄道物語」を考えています。