05.鬼ヶ島復興計画

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

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童話のパロディや続編を書こうと思ったことがあります。

「王様の背中」は一風変わった内田百閒らしい短編集で、桃太郎の続編が納められています。桃から桃太郎が生まれ、喜んだお爺さんとお婆さんが桃太郎にかまけている隙に、こっそり戸口から覗いていたイノシシが桃を盗む話で、これが気に入ってそんな話を書きたいと思っていました。

桃太郎はいくつかパロディがありますが、他の童話のパロディは見掛けませんでした。何故だろう。パロディの題材にする童話を探していてオリジナルそのものが知られていないのではないかと思い当たりました。教科書などで取り上げてあれば読んだことがあるけれど、そうでなければ知らないし読もうと思わない。知らない話のパロディや続編では面白さが伝わらない。「金太郎」「日本の童話」「イソップ童話」「マザーグース」「グリム童話」「アンデルセン童話」など、改めて読んでみると忘れていたり、知らない話がある。「金太郎」なんか歌は知ってるけど、お話? って感じですよね。いくつか考えてみました。

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ごんぎつね殺狐事件
「お前を逮捕する」
 暖かな昼下がり、兵十は突然家に上がり込んで来た巡査達に捕らえられた。村で初めて見る大勢の警官に何事かと村人が集まって来る。
「旦那、おらが何をしただ?」
「ごんぎつね殺狐の容疑だ」
「ごんの? そら間違いだ。あれは事故だ」
「申し開きは法廷でするんだな。連れて行け!」
 抗議を聞き入れもせず巡査は兵十を引っ立てた。
 既に埋葬されていたごんぎつねの遺体は掘り返され、鑑識により銃による射殺と断定された。兵十の家の納屋からは、凶器と思われる種子島らしき年代物の猟銃が発見され、その入手経路が取り沙汰された。暴力団はこの手の猟銃を扱っておらず、博物館から盗難届けが出ていないかどうか本庁に問い合わせることになった。
 近所への聞き込みにより、兵十が普段から怪しい者が果実などを戸の外に置いて行くと漏らしていたことが確認され、検察はこの事件のポイントは、怪しい者がごんであることに気づいた兵十の殺意にあると考えた。兵十がごんぎつねの持参した果実を脅迫なり威嚇と受け止めていたかどうかである。
 兵十が雇った弁護士は人権派で知られる、怒目牙(どめきば)弁護士だ。
「こいつは手強いぞ。裁判での心証で判決が左右されそうだな」
 小石は資料を見ながら呟いた。
…以降、続かない。

 

赤い蝋燭と人魚と富岡商事株式会社
「初めまして、富岡いいますねん。これ、お近づきの印に。饅頭です。早速ですけどな、お宅に人魚はんの赤い蝋燭って残てるんですか? えっ、ある! それ、譲ってもらえまへんかな? 何にするて、人魚はんの赤い蝋燭に偉い力があるやおまへんか。どんな嵐でも火が消えへん。この仕組みが判たら台風でも消えん蝋燭がでける。物理法則がひっくり返りますわな。え? 物理法則って何? そらま、物理の法則やがな。それとな、蝋燭で嵐を起しますやろ? これも仕組みが判たら、船とか堤防とかありますやろ? 船とか堤防って嵐の大きさを考えて作てあるんやけど、ほんまもんの嵐で試した訳やないから、嵐を起して検証出来ますねん。壊れたらあかんけどな。それとか、雨の降らない国に持ってって砂漠に雨を降らす。一人百円ももろたら大金持ちや」
…以降、続かない(ええ加減な関西弁で、関西の方えろう済んまへん)。

 

鬼ヶ島復興計画
「痛ぇなぁ」
「痛たた、畜生ひでぇことしやがる」
 桃太郎と犬猿雉の襲撃を受けた鬼ヶ島では、被害鬼達が村中あちこちに倒れうめき声を上げていた。穏やかな鬼が島に突然、武装した桃太郎と凶悪な犬猿雉が上陸して来て、村中で暴れまわった挙げ句、老後のために保管しておいた宝物を根こそぎ持ち去ったのだ。
「おかしら」
 右手と左足に怪我をした赤鬼のジュンが来て言った。
「宝物はすっかり持って行かれっちまいやした」
「何も残ってないのか?」
「へぇ。鬼のお面の留め金が落ちてただけでさ」
 それを聞いた頭はがっくり肩を落とした。
 ピンク鬼のエリーが来た。
「お頭。食堂も全滅よ。お皿を割るわ食器棚を倒すわ、酷いったらありゃしない。鶏肉に糞したのは雉だね。食器を放り出したのは猿。犬は椅子にしょんべん引っ掛けて、そらまあ酷いもんさね。見てた子供達も蹴っ飛ばされて引っ掻かれてミチコとアキラが怪我したわ」
「とにかく、まず怪我鬼を救うのが先だ。行け!」
「はいっ」
 鬼達は鬼ヶ島全域をくまなく捜索し、怪我人の救助と被害状況の把握に当たった。その結果、財源を奪われた鬼ヶ島だけでの復旧は難しいことが判った。
「おかしら、どうしやす?」
「銀行から金、借りよう」
「返す当てはあるんですか?」
「借りた金で鬼ヶ島を高級リゾートに変身させる。そして客を集める」
「成る程! それはいい考えで」
 寝る間も惜しんで甲斐甲斐しく働く鬼達の力によって鬼ヶ島復興計画は順調に進み、宿泊施設の増築や食堂の改装、鬼踊りや金棒ダンスなどアトラクションの追加、観光客相手の土産物屋建築が進んだ。鬼ヶ島の入り口には、日本語、英語、中国語で書かれた「桃太郎の上陸禁止。犬猿雉の上陸禁止」の立て札が立てられた。

 一方、桃太郎と犬猿雉は鬼ヶ島から帰った後、鬼征伐を記念して年に一回「ももたろ会」と名付けた宴会を続けていた。そろそろ襲撃時の衣装がきつくなった三年目のももたろ会で雉が桃太郎に言った。
「桃さん」
「何だ」
 いつものようにかなり酔った桃太郎は虚ろな目で答える。BGM のボニー・ジェームスの「Don't Let Me Be Lonely Tonight」が心地よい。
「たまには、ももたろ会で温泉旅行しませんかね?」
「お、いいな」
「最近できたリゾートで、『オンニーニ』ってのがあるんすよ」
「イタリアか?」
「いや、鬼ヶ島っす。鬼退治した後、イタリア人が買い取ったんっすかねー。リゾートになってんすよ。区役所でチラシ貰ったんだけど二人以上だと割り引きがあるんっすよ」
 次の曲はカーリー・サイモンの「As Time Goes By」だ。
「温泉あるんか?」
 焼きホッケを噛りながら猿が聞く。
「あるよ」
「桃さん、そこにしませんか?」
…以降、続かない。

 

長靴を嗅いだ猫
…。

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結局、パロディではなく書いた方が早いとの結論に達しました。
誰もが知っている童話を選定するのが難しいのと、オリジナルの内容に沿って話を展開しなければならない制約からでした。
それならと書いたのが、短編集「長靴を嗅いだ猫」です。

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