89.コロナ禍で突然の夏休み

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コロナが流行ってからと言うもの、皆さんと同じですが仕事が激減しました。時間だけはたっぷりある。なので普段はできないことをしようと思い、プログラムの勉強を始めました。BASIC、PASCAL、辺りはある程度理解していたので(C もなんとなく理解)、新たに C++ を始めることにしました。動作環境は、今では FREE の環境が多く用意されています。BORLAND(現 ENVACADERO)の古いコンパイラが FREE でダウンロードできるようになっており、環境はすぐに構築できます(ほとんど英語版ですが)。
そのままになっていた 600 ページもある分厚い教則本を頭から読んで行くことにしました。分厚いので、普段は途中で仕事が入ったり何かと邪魔が入ってしおりを挟んだままになって仕舞い、こんな時期にしか読めない。C++ は C の延長かと思っていたら全然別の言語だった。
言わば独学ですが、躓かなかった訳ではなく、何度も読み返して初めて理解できることが多く、Web にも言語を解説するサイトがあるので、こちらも利用させていただきました。同じ単元(と言うか同じ部分)でもサイトによって説明の仕方が違っていて、参考になるサイトと読み物でしかなかったサイトと色々でした。プログラミングの説明なので、簡単なサンプルから少し手の込んだサンプルがあると助かる。気になったサンプルは数字などを少し変えて見て試す。飽きてくると他の言語でも同じ単元、例えば「関数」とかを探して読んでみる。Visual BasicPASCAL などとは関数の呼び出しが違ってたりするので、いい勉強になりました。
色々な言語を勉強すると、それぞれの特徴が見えて来て、同時に真似たらしいところも見えて来ます。関数の値渡しと参照渡しなどは、取り入れた理由は理解するものの、結果として混乱の元になっているので何とかならないものか。コンピュータの仕組みに関わることだと思うので仕方なさそうですが。
困ったのが開発環境です。IDE(Integrated Development Environment)が増えて使い方を覚えなくちゃいけないし、どの言語でも terminal(UNIX)や command prompt(MS-DOS)でコードを書くと言う、純粋に文法だけで終わる訳ではありません。もちろんコードだけ書く環境もありますが、それぞれの IDE の使い方を覚えながら書かなければならん。これが結構面倒です。GUI ともなると、例えばボタンの動作もそれぞれ違う。今はフリーのヴァージョンで試せるけど、その昔は 10 万とかで買わないとだめでしたからね。いい時代になったものだ。

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PC だけじゃなくてスマホを入れると選択肢が増える。android の場合は turmex と言う linux 環境もあるので、IDE で試すよりは普通にコードレベルで開発して遊びたい。そうなると C はコードだけなら環境を選ばない。ひとつコードを書けば MS-DOSWindowsandroidLinux とどの環境でも動作は同じです。中でテキスト表示をさせる場合は文字コードを気にしておかないと文字化けします。android 上で動く MS-DOS ってのがよさそうな感じがしてきた。

88.寒のサンタクロース

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サンタクロースのソリを引くトナカイ8頭の名前は、ダッシャー、ダンサー、プランサー、ビクセン、コメット、キューピッド、ドナー、プリッツェンで、よく知られているのが追加された真っ赤なお鼻で知られるルドルフです。

 真っ赤なお鼻の トナカイさんは
 いっつもみんなの 笑い者

真っ赤なお鼻がぴかぴか光って道標になるから、ソリの先頭を曳いてくれだって。見た目は歩く救急車だな。真っ赤なお鼻のトナカイはアルコール依存症に違いない。雪が多くて寒い地方だし、冬はウォッカ漬けなんだろうなぁ。
鼻が辺りを照らしくれて、プレゼントを届ける時に判りやすいって、それなら昼間配ればいいんではないだろうか。昼間は忙しいのかな? あ、昼は飲んだくれてるのか。
そういえば、外国で鼻が赤い人、と言うのは時々見掛けますけど、日本には少ない。呑む量が違うことや、アルコール分解酵素の問題でしょうかね。話が反れた。
「あいつが新入りのルドルフって奴か?」
「そうらしいですね」
「確かに鼻が真っ赤だ」
「夜には光るって本当かな?」
「見たことないけど、そうらしい」
「出火するほどの熱を持つらしいな」
「蚊や蠅は寄ってこないだろうな」
「それは本当か!?」
「蚊や蠅は、焚き火に近寄らないぞ」
「するってーと、あのルドルフの鼻は焚き火と同じ熱を持っているのか!?」
トナカイ達はしばらく先を歩くルドルフを見た。
「一種の凶器だな」
「クリスマス・プレゼントが盗難に遭うのを防げる」
「あの鼻で?」
「盗難を目論む奴が知らずに近付いて来て、サンタクロースの袋に手を掛けた瞬間、ルドルフの鼻先に触れて大火傷をおう」
トナカイ達は言葉をなくした。

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ある晩、いつものようにルドルフを先頭にしてサンタクロースのソリは闇夜を進んでいた。しかし、ルドルフは辺りの空気がいつもと違うと感じていた。
「何だろう?」
この時期、季節が秋の終わりから冬に変わろうとする時は、一足早い寒さが、時に空気中の蒸気を凍らすことがある。しかしその日はより皮膚を刺すような刺激で、空気が凍ったせいではない。
ブアン! 忽然とサンタクロースのソリの前に現われたのは、インカ金星人の宇宙船であった。インカ金星人は宇宙銃を構えていた。
「ご苦労だな、サンタクロース。ソリに乗せたプレゼントは置いて行け!」
「な、何だとぉ!」
サンタクロースとソリを引くトナカイ達は大騒ぎになった。
「サンタさん、どうしやす?」
「インカ金星人には敵わない」
「くそっ!」
「サンタさん。僕に任せてくれ」
ルドルフは一歩進み出る。
「何だお前は! トナカイが何の用だ?」
ルドルフは返事もせずに、高熱で真っ赤になった鼻先をインカ金星人の宇宙船に近づけた。するとどうだろう! 鼻先が近づけられた宇宙船の外壁が溶けていくではないか!
「わわっ! 何だこりゃ!」
「首領! こいつの鼻は高熱を持っています」
「これ以上、宇宙船が溶けたら危険です!」
「仕方ない。ここは一旦、引き下がれ」
インカ金星人は溶けかかった宇宙船の乗って逃げて行った。
「助かった、ルドルフ。ありがとう」
ルドルフの鼻先の気温が下がるのを待って、サンタクロース達は仕事を続けたのであった。

87.小春日和のトナカイ

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サンタクロースが猫に仕事を依頼したことが判明した冬の日、トナカイ達は相談のため長老の屋敷に集まった。
暖かな小春日和の朝で、座敷からは遠くに頭に雪を被った富士山が見えている。何故トナカイの長老の家から富士山が眺められるのか。それは丹沢に住んでいたからである。
「冬だと言うのに、暖かいですなぁ」
「子供の頃だったら飛び出して行って、そこいらの原っぱで遊んでましたな」
「そうそう。あの頃は近所にいっぱい原っぱがあった」
「寒い時は『山茶花山茶花、咲いた道。焚き火だ、焚き火だ、ダイオキシン』って歌ったね」
「塀越しに、柿やみかんをよく取った」
「草っぱらで鬼ごっこをしたなぁ」
「最近の子トナカイは外で遊ばないんだね?」
「遊ぶ処がなくなっちゃったんじゃね?」
産業の発展、住まいの近代化などに伴って街も変わった。トナカイ達が外を眺める眼は、時代の移り変わりを哀しむそれだった。
「昔はよかったなぁ。学校の下の道を用水路沿いに行った角の店でアイスキャンデー売ってたよね!」
「知ってる、知ってる! あずきアイスとソーダアイスの2種類しかなかったんだよな!」
「そうだっけか? よく覚えてるね」
「俺はいつもあずきだったから覚えてない」
「それはそうと、サンタさんのソリが猫になった件、何か新しい情報は入ったか?」
「だめだ」
「待て! 静かにしろ!」
トナカイ達は騒然となった。壁際に設置された NORAD の信号受信装置の点滅信号が点灯し出したのだ。
「何故、緊急信号なんだ!?」

※ NORAD北アメリカ航空宇宙防衛司令部)は、北アメリカとカナダの航空や宇宙の人工衛星、各種ミサイルの安全な運用を目的とした組織で、クリスマスに宇宙を進行するサンタクロースの情報を発信したことで知られる

「サンタクロースのソリを、猫が引くようになったためのエラーじゃないか?」
「サンタクロースがそのことの届け出を更新し忘れたのか?」
皆が騒いでいる部屋にトナカイの長老が入って来た。
「皆、聞いてくれ」
トナカイ達は静かに長老の言葉を待った。
「皆も見たと思うが、NORAD から緊急情報が入った。宇宙人がサンタクロースに攻めて来たらしい」
「えーっ?」
「何だって!」
「今までは、我々トナカイがソリを引いていたが、今年から猫が引くことになり、試験的に引かせたところ宇宙人が攻めて来て、プレゼントを盗られた」
「なんと言うことだ!」
「プレゼントを取り戻さねば!」
「そうだ。どうやらこれまでは、我々トナカイがソリを引いていたので、宇宙人は恐れをなして近寄らなかったらしい」
「それを聞いてはじっとしておれん」
「そうだ! 取り返しに行こう」
かくして『宇宙人撃退プレゼント取り返しトナカイ軍団』が結成された。
この段階では、どこの宇宙人が攻めて来て、プレゼントはどの星まで持って行かれたのか解らないが、犯人は火星人か金星人で、盗んだプレゼントは月の裏側に隠されていることが多いらしい。

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ここは新丸子の飲み屋街。蛍光灯の切れかかった「Pub 惑星」の看板。
トナカイの長老がドアを押して中に入る。
「いらっしゃいませ」
トナカイの長老はコートを預けてカウンターに座った。
「何に致しましょう」
「あるじ。火星人のビールをくれ」
「どきっ!」
見ると、あるじは地球人とかけ離れたバランスの目鼻口を持つ店の主人がおどおどしている。
「どうしてそれを…」
「儂は去年までサンタクロースのソリ引きを指揮しておった」
「業界をご存知で」
「ソリを遠くから眺めてる火星人や金星人を知っておる」
「当時はトナカイさんが引いてらっしゃるんで、恐れ多くてプレゼント盗みはできやしません」
「猫ならいいってか?」
「へへっ。まあ」
「いいか、あるじ。儂等はサンタクロースのソリ引きを解雇されて、お縄になっても困りゃぁしねえ。今回はお試しだが、サンタから奪ったプレゼントの山を返せ。さもないと次からは俺等もソリに付き合う。邪魔する奴ぁ許さねぇ」
しばらく睨み合いが続いたが、店の主人は折れた。
「判りやした。サンタさんのソリに手は出しゃしません」
トナカイの長老はゆっくり椅子を降りてコートを羽織り、店を出た。遠くからクリスマス・ソングが聞こえる。もうすぐクリスマスだ。