83.道端ノン・アルコール・ビヤ・ガーデン

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コロナ過で家にいることが多くなり、近所にどんな人がいるのか判って来ました。
向かいの老夫婦
自宅でお仕事をされています。最近になって独立していた娘さんが戻って来られました。
向かいの隣
こちらはご主人が亡くなって久しいです。時々息子さんが室内の整理に訪れています。奥さんも早くに亡くなったので、コロナが落ち着いたら処分されるのでしょうか。
斜め向かい
犬を飼っている老婦人。娘さん夫婦が近くに住んでいるようで時々見掛けます。
路地の人々
猫を飼っているお宅が並んでいます。割と昔から顔馴染みでした。猫絡みだったからかな。
隣の家
隣は元は一軒だったものが五軒になりました。
斜め向かいの家
こっちはもっと凄いですね。元は一軒だった土地に七軒建ちました。もちろん庭はなく、ほとんどが子供一人二人の若い夫婦です(そういう家族対象に売り出したんだろう)。

どの家の方か判らないけれど、近所で時々会う娘さんがいます。道端で会うと会釈するのですが、どの家の人か判らない。二十歳過ぎくらいで、仕事に出掛けるところに遭う感じ。昼間遭う他の家の方ではないし、会釈するくらいだからこっちのことを知っているのだろうし。う~む。判らない。
「後つけてみたら?」
「いや、出掛ける時に会うんでつけてったら家は判らないし、違う処に行っちゃうと思うんだけど」
「それじゃ、帰って来るところを見張ったら?」
「いつ帰って来るか判らないんで何時間も家の外で待ってたら、絶対怪しまれる」
「ご近所だから顔知ってるし怪しまれないでしょ?」
「ご近所だから、外で見張ってたりすると心配して声掛けて来ると思う」
「ご近所で顔を知ってることを前提にして、道端にテーブルと椅子を出して帰って来るまで待ったら?」
そういえば、うちの庭にステンレス製のテーブルと椅子がある。どの家にもありそうな定番のビヤガーデンタイプのやつです。あれなら、塀に沿って置けば怪しまれない。ただ座っているのは変だから小物で缶ビールがいるなぁ。
そうだ! いいことを思い付いた。缶ビールだとビールとはいえ、帰って来るまでたくさん飲んじゃってべろべろになり、役に立たなくなっている可能性がある。ノン・アルコール・ビールなら酔わないから、娘さんの帰りを待ちわびて家の前のテーブルで呑むにはちょうどよい。いいことを思い付いたと口角が上がって来た。

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いつの間にかノン・アルコール・ビール・パーティを開くことが知られて客が増えて行った。庭にあった二つのテーブルと八脚の椅子を持って来て、交替で近所のコンビニから次々とノン・アルコール・ビールを買って来て(滅多に出来ない呑み比べだと思えばいい)、盛大に宴会が始まった。
当然、道行く人は知っている人ばかり。突然見付けて一杯だけ途中参加したり、そのまま居座ったりで、結構賑やかだった。

しかし、ノン・アルコール・ビール中心なのに顔を赤くして酔ってる人がいる。あれは何だったのだろう。因みに例の娘さんは帰って来なかった。別の道を通った可能性もあるため、ノン・アルコール・ビール・パーティは今後も開かれることになった。

82.うっとぉしい季節です

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日本語の表現で「うっとぉしぃ」「かぃがぃしぃ」「おどろおどろしぃ」と言う雰囲気が気になりました。梅雨の時期の言葉としては打って付けの気がしたけど、使われるのは限られた分野だけだし、余り使われないし。ならば似たような響きの言葉を考えてみよう。

「ぬっとぉしぃ」
「くっとぉしぉ」
「ずっとぉしぃ」
「むっとぉしぃ」
「ねっとぉしぃ」

う~む。嫌な感じを出していることは伝わるけど、嫌な感じ以外の意味を持たせられない。じゃあ、この嫌な感じをどう使うか。嫌な感じ専用の形容詞か。

「えーい、下がれ下がれ! このぬっとぉしぃ奴等め!」
「くっとぉしぃ奴め。ここに、控えおわす方をどなたと心得る! 先の副将軍水戸光圀公に在らせられるぞ」
ぬっとぉしぃ連中がわらわらと寄って来て、ご隠居様を取り巻く。
「えーい、下がれ下がれ!」
「ずっとぉしぃぞ!」
ご隠居一行に引き寄せられて集まって来たずっとぉしぃ連中が道を塞ぐ。助さん格さんは、触るのが気持ち悪いなぁと思いつつ、役目があるので、ぬっとぉしぃ連中を遠ざけなければならない。時と場合に寄っては、第一種接近遭遇になること止むを得ない。
「なんでこんなに、むっとぉしぃんだ!」
「助さんが、ねっとぉしぃからじゃ、ありませんかね」
「そうか! あれ? もしかしてあっしが悪いのか?」
「助さん。やっと気付いたんですかぃ?」
「そうだったんか…」
「いっつも悪いのは助さんじゃよ」
「ご隠居。そりゃねーでやんしょ!」
気分を悪くした助さんは、身を張ってご隠居を守るのを止めた。それを見たむっとぉしぃ連中はこれ幸いと、一層ご隠居一行に迫った。ところがご隠居一行を守るの止めても、理由はむっとぉしぃ連中に伝わらない。抵抗しなくなり邪魔がなくなったと勘違いした程度だ。

話が違う方向に向かってしまった。

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「ご隠居。それじゃ、なんて呼べばいいんですか?!」
むっとぉしい連中を両手で避けながら、助さんは顔をご隠居の方に向けて聞く。ご隠居も杖でずっとぉしぃ連中を祓い除けながら答える。
「歳を取ると忘れっぽくなっていかん。なんと言う名前だったかのぉ?」
「ええい! 下がれおろぉ!」
格は両足をぬっとぉしぃ連中に掴まれて動けなくなった。
「わわっ! こっちも動きが取れなくなるぅ!」
「助けてくれぇ!」
ご老公ご一行に、うっとぉしぃ連中が覆い被さって行った。

なぁんて、嫌な夢を見て汗びっしょりで夜中に目を覚ます、ことのないように。

81.どこのおみくじ

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晦日にお参りに行くか、年が開けてからお参りに行くか迷っていたが、夜になっても然程寒くなったので出掛けることにした。ダウンを羽織って出たら暖かい。
 心頭滅却すれば火もまた涼し
逆の状況だ。言わば
 心頭滅却に拘わらず暖かし
って感じ。
スキーに行った時は夕方リフトが止まったゲレンデでも、志賀高原の一番上でも、寒さを感じなかった最強のダウンだ。どんな寒波でも勝てる安心感がある。
それだけに、今日の街中の寒さだとちょっと暖か過ぎて、熱さ対策が必要になってしまうほどだ。まあ、寒いよりはいいけど、人間は何度くらいから寒さを熱さと感じるのだろう?
ポケットに何か入ってることに気付いた。何だろう。ファスナーを開けて取り出した。
「おみくじだ」
いつのおみくじだ? 広げてみた。

 長野県木本湖怨慈社安全祈願 吉

記憶にない。漉き目? って言うのが入ってる和紙で高そうな感じ。スキーに行った時に神社に寄ったっけ。判らないけど、初詣をする時こっちの神社に返しておけばいいだろう。
全国の神社はお互い繋がっていて、長野県でおみくじを引いたから、うちの近くの神社に帰せばいいのだと勝手に決めた。郵便局やコンビニみたいに、全国展開してる気がしたのだ。
神社の参道が見えて来た。疎らに人が並んでいるけど混んでる感じではない。これならそれほど待たずにお参りできるだろう。
「寒いね!」
「帰ったら日本酒だね」
前に並んでいたカップルの声が聞こえる。私には持っていた長野のおみくじを数年振りに神社に返す、と言う大切な使命が出来た。飲むなんて、とてもとても。家を出る時は何も考えてなかったけど、おみくじを引いた時からすると数年掛かりの使命なのだ。実際にはいつ買ったおみくじなのか判らんけど。だから参道で待ってるくらいで寒いなどと言っていられないのだ。関係ないが、ランボーの映画を思い出した。
いかん! 目的が変わっている。大晦日だから初詣しようと思ったのが、ポケットのおみくじを見付けたことで、おみくじ中心になりつつある。このままだとお参りせずにおみくじだけ引いて帰りそうだ。

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しかし、だ。ポケットに入っていたおみくじは吉だったけど、比率はどのくらいなんだろう。大吉、吉、小吉、凶、大凶。宝くじと違うからどれかに偏ってても問題はない。購入した人だけ判るから、例えば凶が多くてもばれやしない。
しかし、だ。都会からの客が多そうな、それもスキー客が多い地方の神社なら、凶、とか吉くらいにして置いた方が客は安心する。大凶だと東京に帰るまで事故に遭わないか気になるし、大吉でも運を使い果たした気になってしまう。吉と凶が中心のおみくじ。
地方から来た客が多い神社のおみくじに期待される、出現パターンが少し読めて来た気がした。列が進んだ。