27.「ひよろり」の今後を考える

電子書籍を書いています。楠田文人です。
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「ひよろり」と言うお話を書きました。
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ひよろりの名前は片倉紗世と言います。ひょろっとしているので、主人公のヒロ(清水浩之)がひよろりと名付けました。ひよろりは転校して来た六年生でヒロは五年生。同じ小学校に通っています。ひよろりは不思議な力を持っていて鳥達と言葉を交わすことができます。
お話はひよろりが卒業するところで終わっていますが、続きを考えています。

「ひよろりを留学させよう!」
「留学ですか? どこに」
「イギリスかドイツか、そんな辺りだ」
「アメリカは?」
「だめだ」
「何でだめなんですか?」
「ひよろりは鳥遣いだ。そう言う技能を伸ばすのにアメリカは向かない」
 何で向かないのか判らないが、課長は言い出したら聞かないから困る。
「父親がイギリスに転勤してたから、イギリスなら知り合いとかいるんじゃないですか?」
「そうだったな。それじゃドイツにしよう」
 何でだ。全く判らんぞ。
「楠田さん、お電話です」
「はい、ちょっと待って」
 営業の電話を受けた楠田がしばらく話をして戻ってきた。
「済みません。書店からひよろりの次作の問い合わせでした。えーっと、どの学校がいいですかね?」
「ドイツかオーストリア、それかハンガリーにしよう。きっと鳥遣いがいるに違いない」
「やっぱり鳥遣いは重要ですね」
そだねートランシルバニア地方もいいな」
「もしかして課長、妖怪とか吸血鬼とかに逢わせようと思ってませんか?」
「ははは。バレたか」
 ひよろりはそう言う話じゃないんだけど。
「ヒロくんはどうします?」
「清水か。やつは大学に進むんだが、将来をどうするか考えあぐねている。そこにひよろりが留学先から帰って来る」
「すると、ひよろりは高校で留学じゃないと話が合いませんね?」
「そうだな。そう言うことになるな」

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ひよろりを留学させることになりました。それもドイツ、オーストリアハンガリーのどこか。あまり馴染みがないからか、なんとなく憧れのあるところです。
ひよろりは誰に会うのでしょうね。
 
「ここがエムス高校か」
 東京から来た留学生、片倉沙世がエムス高校の正門を感慨深気に見ている。記念写真は撮らない。雀が三羽、目の前に舞い降りた。
「よろしくね」
 雀はびっくりしてひよろりを見る。
「そうだよ、鳥の言葉が判るの」
 それを聞いた雀はぺちゃくちゃお喋りを始める。
「ああ、そう言う話は後でね」
 ひよろりは雀の問いをそのままに正門の中に入って行った。
さあ、どうなる?

26. Haven't We Met

電子書籍を書いています。楠田文人です。

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春っぽい感じがするジャズです。ジャズのシンガー&ソングライター、ケニー・ランキンの曲。

 Haven't We Met(ケニー・ランキン)はこちら >>

軽快なワルツでアン・サリーも歌っています。

 アン・サリーはこちら >>

これ以外にも、メル・トーメ、カーメン・マクレーなども歌ってます。
歌詞の中に「Haven't We Met」が出て来るのですが、英語って男言葉と女言葉が日本語程はっきりしていないので、「お会いしましたか?」なのか「お会いしたかしら?」なのか判りません。女言葉で訳した方がしっくり来ます(ご興味のある方は歌詞を Web で検索してみてください)。内容もおしゃれで女性が歌うとよさそうな、一昔前のミュージカルの感じで、オードリー・ヘップバーン主演、ってとこかな。
この曲を演奏するのはとても難しい。うちのバンドの楽器構成がサックス、ピアノ、タイコ、ベースだったからかも知れませんけど、中々軽い感じを出せません。タイコの刻み方か、ピアノのリズムか、はたまたベースのせいなのか結構悩みましたが、毎回違う理由で軽い感じならない。ギターがリズムを刻んだら軽い感じが出たかも。

三拍子と言うか、ジャズワルツってそれ程多くありませんがどれも名曲です。

 Some Day My Prince Will Come(いつか王子様が)マイルス・デイビス こちら >>

 Walts For Debby ビル・エバンス こちら >>

三拍子そのものがジャズでは珍しいので印象に残りやすいのでしょうか。三拍子の曲はブルースっぽくないので近代音楽的な雰囲気が出るのかも。マイナーブルースなら三拍子もいい感じですけど、そもそもジャズとワルツって相性がいいとは思えない。相容れない世界ですからね。
変拍子で一番有名なのは「テイク・ファイブ」でしょう。

 デイブ・ブルーベックのテイク・ファイブはこちら >>

これは 5 拍子です。最近の(最近でもないが)Fusion 系では平気で変拍子が登場します。これはタル・ウェルキンフェルド。

 タル・ウェルキンフェルドのセレンディピティ>>

不思議なことに、ジャズでも三拍子ではない変拍子だとしっくりします。昔から変拍子があったみたいな感じで馴染んでしまう。と言うよりは、三拍子がジャズにとってちょっと変わった雰囲気を持っているのかもしれません。

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「先生、何故三拍子だけジャズで異質なのでしょうか?」
「それはだな、ジャズはブルースが基本。ブルースと言うことは四拍子だな」
「ブルースは四拍子だけじゃなくて、六拍子もありますね?」
「ある。六拍子だがシャッフルで考えれば、四拍子と同じだ」
「同じですか?」
「そうだ。演奏する側にとってだが、ノリが違うだけで同じだ」
クラシック音楽では三拍子がありましたねよ?」
「あった。だがクラシックの場合、昔は小節と言う区切りがなかったから、拍子と言う概念がなかったに等しくて三拍子とは言えないがな」
「三拍子はなかったんですか?」
「いや、あった。二拍子と三拍子で全てを表していた」
「三拍子は結構古いんだ。三三七拍子も古いですよね?」
「それは拍子ではない」

25.のこのこ村

電子書籍を書いています。楠田文人です。

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のこのこ歩くのこのこはのこのこ村に住んでいると言う。しかし、のこのこの姿を見た者はいない。通った跡が発見されると村人はのこのこの噂をする。のこのこはのこのこ歩くと言うが、どのくらい遅いのかこれも噂の域を出ない。

源爺さんは山のとうもろこし畑を荒らす三太郎狸を捕らえようと山に入った時、山道で何かが道を横切った跡を見付けた。一升瓶程の太さのものが草をなぎ倒し、土に跡を付けて道を渡っていたように思われた。
「何だこりゃ? 何か引きずってったんか」
ふと見ると道の先に狸が転がっていた。どうやら転んだ拍子に石で頭を打ったらしい。すぐ先に兎も転がっている。兎も転んで石で頭を打ったらしい。
「三太郎狸だ。手間が省けたわい」
源爺さんは狸を袋に放り込んで棒に括り付けた。
「しっかしまあ、兎まで。何でこんなところに転がっていたんだべ?」
兎は目を覚まし起き上がってふらふら逃げて行った。源爺さんは畑が荒らされていないことを確認して狸を担いで村に戻り、見たことを皆に話した。物知りの文三が言った。
「源爺さん。そりゃのこのこだ」
「のこのこだと?」
源爺さんは驚いた。あれはのこのこだったのか!
「そうだ。のこのこだ」
「のこのこって、まさかあの!」
楊枝を咥えた伊予吉が驚いている。
「昔から伝わる、やたら鈍い生き物か?」
「本当だったんか!?」
「何かの間違いじゃねーか?」
「山で見たっちゅう人がおったぞ」
狸袋をぶら下げた源爺さんのところに村人が集まって来る。
「何かが通った跡があったけんど、何も見なかったぞ」
「その狸が何よりの証拠。兎も転がっていたと言ったよな?」
「ああ。兎もおんなじように転がっていた」
「のこのこはな…」
村人達は一斉に文三の言葉に耳を傾けた。源爺さんは話を聞くために狸袋を下ろした。狸は逃げようともがいたので、蹴っ跳ばしておとなしくさせた。
「のこのこ歩くんで避けようとしても遅すぎて躓いてしまうんだ」
文三さん、意味が判らんぞ。遅いなら簡単に避けられるんじゃないか?」
「そう思うだろ。ところがそうじゃない。避ける、と言う動作は生き物が自然に会得した物理法則に従う。例えば飛んで来る物を避ける時、無意識のうちにそれがどんな放物線を描くか推測して避ける。飛んで来る物を捕らえる場合も同じだ。犬に餌を放ってやると落ちる場所を推測して受け止める」
「物知りだな」
村人達は一斉に頷く。
「おらんとこのタローは受け止めんのが下手だ」
文三は一郎太をちらっと見ただけで話に戻った。
「カメレオンっちゅう外国の蜥蜴は、えれー長い舌を伸ばして虫を捕らえるんだが、こん時も自分の位置と虫の位置の距離を見積もって正確に舌を伸ばす。こんな風に生き物は皆、無意識のうちに物理法則に従っている。ところがのこのこは違う」
村人達は固唾を飲んで続きを待った。
「のこのこの動きは物理法則を裏切る程遅いので、もう通り過ぎると思って足を出すと、まだ通り過ぎてなくて足を引っ掛ける。飛び上がろうとするから、飛び上がるかと思うと地面からちっとも離れない。兎も狸ものこのこが通り過ぎると思って走ったがのこのこはまだのこのこ歩いていて、足を引っ掛けて石で頭を打ち、気を失ったのだ」
「おおー!」
「何てことだ、そうだったんか!」
「知らんかった!」
村人は口々に驚きを表わした。

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文三さん」
一郎太が口を挟んだ。
「おら思ったんだが、生き物が皆、のこのこにぶつかって転がるんなら、のこのこの体は蹴られて傷だらけじゃないか?」
そんなことを考えたことがなかった皆は、一郎太の言葉で痛がっているのこのこを思い浮かべた。もちろん見たことないから全員別の、のこのこを思い浮かべていた。
「痛かっただろうなぁ」
「狸と兎だけじゃないだろう。熊とか鹿とか猿も蹴ったに違いない」
「可哀想だ」
「こりゃ、のこのこをのこのこ蹴りから守る算段をせにゃあかんな」
それからと言うもの、村人は山を歩く時は足元に気を付けるようになった。

のそのそ歩くのそのそはのそのそ村に住んでいる。