13.Superstition(迷信)

スティービー・ワンダーのヒット曲ですね。この曲は BBA(ベック・ボガード&アピス)の演奏でも有名です。オリジナルのキーは「Eb」、BBA は「E」でチューニングを変えないと弾き難いのですが、って演奏の話じゃなくて。

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欧米の迷信で「黒猫が前を横切ると不吉なことが起きる」「縁起の悪い時は木を叩く」「六月の花嫁は幸せになれる」「13 日の金曜日は縁起が悪い」はしばしば歌詞に出て来ますし、「Ain't Superstasious」「Knock On Wood」「Friday's Child」なんて曲もあります。ブルース「Mojo Workin'」の「Mojo」は不思議な力のことだそうです。
不思議なものに対する憧憬は人類皆同じで、妖精、妖怪などの存在を信じることと同じ心理がありそうです。フェアリって言うと花の中にいる小さな人間で羽が生えてて、ってピーターパンに登場するティンカーベルだ。

調べてみました。妖精(フェアリ)には色々なのがいて、片付けをしてくれたり、悪さをしたりと、日本の妖怪と同じみたい。柳田国男の説に「鬼は格下げされた前代の神」みたいな話がありまして、その土地で神と崇められていた存在が、次の勢力によっておとしめられて鬼や妖怪と呼ばれるようになったとか言うのを思い出しました。ぬりかべを信仰する白塗り族や、一反木綿を信仰する木綿褌族か。ちょっとやだなぁ。

迷信っぽくて、お話や映画の題材になりやすいものに「狼男」があります。狼男には人間が狼になる「Wolf Man」と、その反対に狼が人間になる「Were Wolf」があり、こいつらは満月に反応するので、それさえ気を付ければ普通の人間として扱っていいでしょう。ただ、狼になると声帯の構造も変化するので、発音が聴き取り難くなりますことをご了承ください。

 妖精を取り上げたお話
 「あの日の夏、ガロルフは書斎の窓からやってきた」
 「ガロルフ達が引っ越した地底の国は大騒ぎになった」
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明治時代の新聞にも妖怪のニュースが登場します。狐や狸から化け猫、雷獣、天狗、幽霊。現れる場所も屋敷や旅館、海や山と様々です。当時はまだ、国中に怪異が溢れていたのは間違いありませんが、次第に文明開花の向こう側に追いやられて行きました。それでも人目に付かない場所で生きています。ほら、そこに…。

「えっ!? 俺のこと?」
「そうだよ。充分一目に付くよね?」
 駅前で大きなお面を被ってビロウの葉を着た姿は目立つ。ハロウィンいつだっけ、って声が聞こえた。
「ポゼって、皆こう言う格好だけど?」
「町中で歩いてないってば」
「そういや来る途中一人も見かけなかった」
「悪石島からだと結構掛かったろ?」
「うーんと。ずっと寝てたから判らない」
「久しぶりだね。明日は秋田か?」
 ポゼは親戚のなまはげの結婚式で秋田に行く途中、私の家に寄ったのだ。先月はがきが届いて、ホテルが取れないから泊めてくれないかと言って来た。
「秋田が観光シーズンで混んでてさ。そうそう、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
 歩きながらポゼが聞く。
「夜爪を切ると蛇が現れるって、本当?」
「迷信だろ」
「俺、爪がないから試せないんだよ」
「僕に試せって言うの?」
「さっき君の指の爪が伸びてたのを見て思い出した。ちょうどいい、そろそろ切る頃かと思ったんだ」
 人に、人じゃないけど、爪を切ってくれと頼まれるのは初めてだけど断る程ではない。
「いいけど。今日の夜切るか」
「頼む」
 私の家に荷物を置くと、ポゼは近所の天御剣立神社に挨拶に出かけた。夕方近くになって戻ってきたポゼとお互いの様子などを話していたら夜になった。
「切るかい?」
「試してみて」
 私は窓際に新聞紙を広げ、縁側の窓を開けた。ポゼは窓際に立って外を眺めている。
「これなら入って来やすいね?」
 私は座って新聞紙の上で爪を切り始めた。パチン。背中の陰になって暗い。
「ちょっと待って」
 私は電気スタンドを持って来て手元を見易くした。
「ああ、これなら明るいね」
 パチン、パチン。パチッ。ポゼが爪を切るところを見詰める。
「切り終わったよ」
「どうしよう。このままがいいかな?」
「そうだね。少しこのままにしておこう」
 私は爪切りを仕舞い、電気スタンドを仕舞った。ポゼと窓の外を見ていると月が見える。
「俺の村の月よりちいさいなぁ」
「君んとこは南だからね」
 窓の隅で何かが動いた。白蛇!
「おい! 現われたよ」
「本当だ」
 小さな白蛇だった。縁側を登りカーテンの下からのそのそ新聞紙に向かって進んで来る。
「本当に夜爪を切ったら白蛇が現われた!」
「でも、何しに来たんだろう?」
 そこまで考えていなかったが小さな黒い目が爪を見付けたらしい。小さな白蛇はするする新聞紙の上の切った爪に近付き、もそもそ一切れ口に入れた。
「あっ!」
「食べた!」
 驚いた。これは想像だにしていなかった。
「夜爪を切ると、切った爪を食べていいって合図なのかなぁ」
「うん」
 白蛇は臆することなく爪を食べ続け、私の爪を全部食べ終えて辺りを伺ってから、またのそのそカーテンの下に潜り込んで外に出て行った。

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 現われた白蛇も、ポゼと私が注視する中で爪を食べることになるとは予定外だったに違いない。お腹を壊さないだろうか。もっと洗っておけばよかったとポゼと一緒に庭を眺めながら思った。
 月は空高く上っていた。

12.事実は小説より奇なり

お話(電子書籍)を書いています、楠田文人です。

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奇妙な事件や事象の枕詞として使われる「事実は小説より奇なり」。イギリスの詩人バイロンの「ドン・ジュアン」に登場する言葉だそうですが、検証した人に拠るとどの部分を指しているのかはっきりしないらしい。ガリレオの「それでも地球は動いている」とか、ニュートンが落ちるリンゴを見て引力を思い付いたとか、子供の頃のワシントンが桜の枝を折ったことを謝ったとか、よくある噂の類かもしれませんが、小説が奇妙なものと認識されていた証拠と言えるかも。
日本でも、古くから怪異談や異聞があるように、人々は珍しい話や不思議な事実が好きでした。風土記には、地方の特徴的な話が集められていますし、平安時代鎌倉時代書物
「高い塔の上から鬼が市内を見下ろしていた。翌日、流行病いで多くの死人が出た」
とか、
「白い鳥が東の方に飛び去った。貴い方がなくなった」
などの話を読んだ記憶があります。
情報を得る手段のない時代、地方の村では希に訪れる旅人の話に村人は聞き入りました。自分が行ったことのない地方には、珍しいものや不思議な風習があると考えていて、何処其処の何某に拠ると何郡の何村ではこんなことがあったそうだ、と言う類の話が散見されます。
ネタとなった珍しい風習のある村の側ではどうだったんだろう。

 ここは山深い戸無村。伍作は前から気になっていたことを畑仕事の合間に父に問うた。
「おとう」
「何じゃ」
「何でおらの村は屋根から出入りせんとあかんのじゃ?」
「いかんか?」
「先達ての旅の人も言うとったじゃ。この村の者は、どないして一階に入り口を作らずに屋根から出入りすんのかと。おらは小さい頃からそう言うもんじゃと思うておったが、あの旅の人が『けったいな村じゃ!』と驚いてたのを見て初めて知った」
「いかんか?」
「そら冬の大雪の時は屋根まで雪が積もりよるから、屋根から出入りすりゃいいが、夏に雪はねぇ。お婆なぞ、屋根に昇るのが億劫じゃて、家から出よらん」
「のう伍作。蟻の家を知っとるか?」
「蟻? 地面の下に住んどる」
「蟻の家の出口は一番上にある。それこそ大昔っから蟻は屋根から出入りしとるがな。おかしなこっちゃねぇだ」
「うぐっ!」
 おとうは得意満面の笑顔を浮かべている。
「中には一度も表に出ぬ蟻もおるらしい」
 食べ終わった弁当を包み、お茶を飲みながらおとうが言う。
「お天道様を拝まん蟻がおるのか?」
「そうらしい。だがな、吾作、お天道様が嫌いな生きもんは仰山おるぞ。梟、狼、幽霊」
「幽霊は違うと思うぞ」
「お天道様を拝まなくても生きて行けるっちゅうこっちゃ。夏はほれ、お天道様なぞ拝まずに蔵にいた方が涼しゅうてええ、お婆も言っとるじゃ」
 確かにそうだ。夏は蔵の中が一番涼しい。それどころか冬は暖かい。いいことを思いついた。
「おとう」
「何じゃ? ずずっ」
「一年中蔵で暮らしゃ楽じゃのぉ。暑いんも寒いんも気にせんでええ」
「蟻の家は蔵みてぇなもんじゃ」
「雨に濡れることもねぇ」
「そうだな」
「おとう、うちも家を土ん中に作らねぇか?」
「ずずっ」
 おとうは難しい顔をしてお茶をすする。
「稲刈りが済んだら穴を掘ろう」
「お婆がなんちゅうかな」
「そんじゃ、まずは俺だけ穴の中で暮らすことにするだ」
「そんならええじゃろ」

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【土籠りの戸無村】
 戸無村は豪雪地帯である。真冬ともなれば五間(一間は 1.818m)程も雪が積もり、家屋は屋根まで埋まってしまう。そのため出入口を屋根に作りかんじきを履いて屋根から出入りする風習がある。元々、村人は冬になると家に篭っていた。室内は寒く薪を焚かねばならないが、地中は一年中温度が一定しており、夏涼しく冬暖かい。在る者が地中に穴を掘りそこで暮らすこと思い付いた。
 穴の入り口は大抵土間にあり雨や雪でも楽に出入り出来る。最初のうちは若者が興味本意で穴を掘り家族は見守るだけだったが、一人また一人穴に入ってみてその心地好さに気付き、家族全員入れるように穴は掘り進められて行った。
 村人はある事実を発見した。地下なら広くしたければ深く掘ればよく、土地争いは起きない。こうして人々はどんどん深く掘り進み、地下の生活を充実させていった。現在ほとんどの家は地上がせいぜい三階なのに対し地下数階まで部屋を作っている。それぞれの家々地下何階まで掘っているか誰にも判らないため、村長が地下階台帳を作るべく村人を集めたが、激しい反対に遭い断念したと言う。
 正田家は長年地下を掘り進めて来た家の一つである。その地下はくまなく歩くためには三日掛かると言われている。これまでに二名地下に入ったきり戻って来ない。希に地下で知らない人に出会うこともあると言う。
 今年も谷地ヶ峰が初雪を頂いた。雪が積もり始め、穴掘りが本格化するのも時間の問題だ。

11.三月堂さんにインタビュー

今日は、日本に三匹しかいない鼻先案内犬の三月堂さんにお話を伺います。三月堂さんは豆芝犬で、あんぱんがおいしいことで有名なぱん屋、千月堂さんのマスコット犬としても知られています。本日は大切なお昼寝の一部を頂きまして、お話を伺うことが出来ました。三月堂さんの飼い主、宮城谷夏子さんは途中からご登場頂くことになっています。

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Q.三月堂さんは、残された匂いを辿って探し物をされますが、どの時点でその実体があると判るのでしょうか? おいしそうな匂いがするのであちこち探すけれど、どのお店から漂って来るのか判らないことがありますよね? 我々は中々匂いの元を特定できませんが、三月堂さんはどうなんでしょう?

A.探す匂いは、色の付いた雲の紐のようになって繋がって感じるのでそれを辿るだけです。探し物が近くなるとその紐が濃くなって匂いの元に繋がっていて判るんです。

Q.具体的に教えて頂けますか?

A.手袋とかの匂いを嗅いで、そこに残ってる匂いを追いますが、色んな匂いが付いてます。手袋をはめて持った工具、掴んだ袋、手袋が入ってたビニール袋、何よりはめていた人の手の匂い。石鹸や、摘まんだポテチの匂い、持った新聞紙の匂いとかも付いてます。そう言う匂いが組み合わさった手袋はそれしかないので、その匂いの雲の紐を追いかけます。だから同じ手袋が近くにあっても間違いません。そっちは違う匂いが組み合わさっていますからね。

Q.手袋の匂いだけでなくて、複合された匂いを追いかけてるんですね。あんぱんの匂いなどもそうですか?

A.はい。ぱん、餡、トッピングの胡麻の匂い以外に、作った人の匂い、出来上がった時に置いた紙の匂い、番重の匂い、ぱん工場の匂い、全てが一緒になって匂います。

Q.例えば音楽を聴いた時に、使われている楽器の音が別々に聴こえる、みたいなものですかね?

A.さぁ…、判りませんけど。

Q.私はずっとバンド活動をしてるんですが、最近になって楽器を始めた人の話を聞くと、曲を聴いて聴き取りたい楽器の音だけ聴き取ることが出来ないらしいんですね。ギターソロとか、はっきりする音は聴き取れてもバックでリズム的に入ってる音が聴き取れない。特にベースは低音なので音程が判りにくい。曲を音の塊として聴いてて、楽器ごとの音を抽出して聴けない。だから演奏をコピー出来なくて、譜面に頼ることになります。
話が外れました。質問を変えます。日本では、いつ頃から鼻先案内犬が導入されたのでしょうか?

A.鼻先案内犬財団に問い合わせて頂くと判ると思いますが、大正時代に最初の鼻先案内犬さんが導入されたと聞いています。ボクの大先輩ですね。当時の日本では、人間の用途に合わせて犬を教育する意識がなかったのでどの犬種が適しているか判らず、イギリスから犬さんを輸入して鼻先案内犬の教育をしたそうです。最初のうちは指示を与えるにも言葉が通じなくて苦労したと聞きます。深大寺の事件でも活躍したそうです。

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Q.成る程、イギリス犬語ですか。その鼻先案内犬も、さぞ手柄を立てられたのでしょうね。

A.犬が事件を解決するなど論外と思われていましたから。特に警察は動物に事件を任せるなど言語道断と決めつけていたようで、匂いを追いかけていて脇道に入ると、食べ物の匂いに釣られたと言われたらしいです。後で犯人が追っ手を巻こうと路地に入ったことが判って、改めて鼻先案内犬の能力に驚いたそうです。

Q.それは凄いですね!? 三月堂さんも食べ物の匂いに釣られたことはないんですね?

A.いえ…。あります。

Q.ごほん(咳込む)。質問を変えます。探し物をされていて記憶に残るエピソードとか、ございますか?

A.探し物を見つけると夏子さんからご褒美を貰えるのですが、年々質が落ちてまして、時には持って行くのを忘れることもあって、そろそろ改善要求を出さないとならないかと考えているところでありまして。一番おいしかったのはですね…。

Q.あのぉ、ご褒美の話じゃなくて、記憶に残るような探し物をお聞きしたいのですけど。

A.あは。色々なものを探したことがあるんですが、自分がそんなものの匂いまで嗅げたんだ、って言うのが我ながら驚きでした。

Q.どんな匂いですか?

A.病気に罹っている人の匂い。何となく普通の人と違う感じの匂いがするんです。それに、何か悪いことが起きそうな匂い。これは悪いことの匂いを嗅ぐと言うより、悪いことがその人に起きる前触れの匂いみたいのを感じます。

Q.前触れ、ですか?

A.ええ。あのぉ、記者さんから悪い匂いがします…

Q.えっ!? 私からですか?

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「お待たせしました。お茶をお持ちしま、あっ!」
 ドッシーン! ガッチャーン! ガラガラ、ドーン。カラカラカラ。